少女と公園

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ぼくは夜の住宅街を歩いている なぜ歩いているのかわからない でもこのちょっと先によく行った公園があるはずだ 大きな象の滑り台とブランコが4席、それからとびきり大きなジャングルジム。 小さな公園だったけど今も昔も大好きだ 「あれ…」 公園につくと月明かりの下で15歳くらいの白いワンピースで白髪をはためかせた少女がいた 悠々とブランコを漕いでいる 時計を見るともう23時を回っていた ぼくは少女に近づくと 「もう補導されちゃう時間だから帰らないとじゃないの」 そう言った でも少女はにこりと笑ってブランコに座るよう促した 少女の隣のブランコに座ったぼくはもう一度帰らないのか、と聞いた 少女はブランコを止めると 「待ってるの。愛しい人を。」 とだけいい、またブランコをこぎ始めた ずいぶんおませさんな女の子だなーと思っていると今度は少女に あなたはなんで公園にきたの と、きかれてしまった 「わからないけど公園に行かなきゃいけないと思って、さ」 なぜか心が沈んでしまい、最後の方は言い淀んでしまった 「そうか」 少女は一言だけ言ってぶらんこの速さを速めた 「愛しい人ってどんな人なんだい」 少し、ほんの少しだけ気になって聞いてみた 少女は少し悩むと おっちょこちょいな人 と 答えた 「おっちょこちょいでおばかさんだけどかっこいいところがたくさんあるの」 少女にしてはきちんとした理由があるんだなと感心してしまった 「あなたは好きな人だとか愛しい人とかいないの?いてもおかしくないわよね?」 いた。愛しく思える人はいた…と、思う 何故かその人のことを断片的にしか思い出せない 「じゃあその人のこと思い出せるように私とおはなししましょ」 少女は嬉しそうにそういうとブランコから飛び降りた しかたなく僕は少女について行った 「隣、座って」 少女が座ったのはジャングルジムの上だった 「いてっ」 ジャングルジムまで走ろうとしたら石につまづいて転んでしまった 上から笑い声が聞こえてきた 「ふふっ おっちょこちょいね そんなに小さな石で転ぶなんて」 時が 止まったかと思った 月明かりに照らされた少女の笑顔と白いワンピースが綺麗で 「なに見惚れてるのかしら、早く登ってきてちょうだい!」 少女は頰を少し染めて言った 僕が少女の隣に座ると彼女のことをなんでもいいから、と聞いてきた 「んー、彼女は不思議な雰囲気を纏った人でユーモアがあってみんなに好かれていた」 そういうと少女はなぜか頬を染めていた なぜ君が赤くなるんだ… 「じゃ、じゃあ!その子との馴れ初めは?」 なぜか慌てた少女をスルーして質問に答えた 「夜の公園で会ったんだ。塾帰りにコーラでも飲んで帰ろうと思って」 少女はいつのまにか前にいてふぅんと鼻を鳴らしていた 「あとは、そうだな ベンチに座って飲んでいたら彼女がジャングルジムの上から話しかけてきたんだ。月が特別綺麗な日だったな 月明かりに照らされた彼女は僕をジャングルジムの上に登ってくるよう言ったんだ 登ろうと思って歩き出したら小石につまずいてしまって…そしたら彼女は上から笑ってきて……」 ぽろ あ、れ、? なんで涙が… 目の前を見ると長い白髪をたなびかせて少女が笑っていた悲しそうに それは僕が見たことのある笑顔に、あまりにも似ていて 「うん、そうだね。そんなこともあったね」 「じゃあ、やっぱり君は…」 高校受験のための塾の帰りの寄り道で僕を誘った彼女とは話をするうちに息が合い、いつしか塾の帰りには毎回よるようになっていた 辛い受験勉強や親からの重圧から彼女といる間は忘れることができた 僕は第一志望の高校に受かったら告白しよう、と思い必死で勉強した 受験日の2週間前僕はインフルエンザにかかった 1週間で治ったものの残りの1週間は塾を休むことになり、彼女と会う時間が無くなった 無事、第一志望に受かった僕は彼女に会いにいつもの時間に公園に行った しかしそこに彼女はいなく、どれだけ待っても彼女は来なかった 約束をしていたわけでもなかったし僕は彼女のことはあきらめ、次に進むことにした 数年後偶然知り合った、彼女と知り合いだという女性からある話を聞いた 彼女が15歳の時から昏睡状態だと言うことを 僕は彼女が眠っている病院に走った その女性はあの彼女で間違いなかった 回復は壊滅的だと言われているそうだ 彼女のお母さんと連絡先を交換して帰った その病院に行ったのは今日だった 「なんで…ここにいるの…?」 昏睡状態で病院にいるはずだ 「さぁ、なぜでしょう それより、久しぶりだね。」 そう微笑んだ彼女はあまりにも儚げで それから僕達はたくさん話をした 「もう日付が変わるね。帰った方がいいんじゃない?」 まだ彼女と話していたかったけれど僕は素直に帰ることにした 「じゃあ、またね」 「うん、ばいばい」 ジャングルジムの上から彼女は笑っていた 月明かりに照らされて白髪をなびかせながら しばらく歩くと電話がかかってきた 新しく登録した番号からだった。
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