冬の訪れ

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 着いた先は商店街の外れにある小さな喫茶だった。店内のBGMに洒落たジャズミュージックがかかっている。 「ふう……今日はジャズで良かった……たまにヘヴィーメタルとかもマスターが気まぐれで流したりするからな」  彼女はげんなりした顔で歩を先に進めた。店の奥からマスターが出てきて軽く会釈する。 「バイトじゃない日まで顔を出さなくてもいいんだぞ」  マスターは真顔で俺に話しかけてきた。理由を話すわけにもいかず沈黙していると、マスターの視線は彼女の方に向いていた。 「そうか……なるほどな」  なんだか納得したようにマスターは頷いた。 「お前もついに現実の女を見るようになったのか」 「違うっての」  俺はマスターのことをスルーしながら彼女を奥の席に案内した。 「あなた、ここで働いているの?」  彼女は疑問というよりも、確認の意味合いで訊ねてくる。 「まあ……週三くらいの割合でね。割と時給いいんだぜ」  コーヒーを一つと紅茶を注文しながら彼女の質問に答える。
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