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という話を聞いた。
一緒にそのレシート裏のメッセージとコーヒー無料券二枚もみせてもらった私は、なんといえばよいのかと答えに困った。
そのことが起きたのは、つい一週間前のことなのだと言った友人の沙織ちゃん(仮名)は、どうしようかと迷っているとのことだった。
その頃、時期は八月で、私の感覚が正しければ季節は夏。その一週間前といえば、まだ七月下旬最終週だったので、やっぱり季節は夏のはずだ。
小春日和というものは、十一月ぐらいに用いる言葉ではなかったか。
「小春」という響きから、冬~春につかうものだと誤解をしている人が多いのも知っている。その場合でも、わざわざ「間違ってるよー、その使い方!」なんて、指摘するのも無粋なような気がして、私は訂正しないしツッコまない。
けれど、夏なのだ。
夏に小春日和と言ってくる(書いてくる?)人を、その時に私は初めて見た。せめて夏日和とか、真夏日和とか、と考えた私は、はっと気が付く。
――もしかしたらスパイスを効かせるための、洒落のようなものだったのかもしれない、と。
貴女という小春に出会いましたよ、みたいな。
小春は冬じゃないか、なんてことは飲み込みながら、いい風に考え流しておくことにして、その疑問を追い払った。
「でね、一応メール送ったんだけど。」
と、沙織ちゃん。
「「送ったの!?」」
と、私と一緒に話を聞いていた友人、菜緒ちゃん(仮名)の声が、見事にぴったりと重なった。
「うん。ちょっと怖かったから、フリーメールのアドレスで。」
その答えに、私と菜緒ちゃんは顔を見合わせた。
そんな得体の知れない人によくメールを送ったなと、菜緒ちゃんも思ったことだろう。
けれど、沙織ちゃんは、そういうところがあった。
特段に男好きとかそういうわけではないのだが、真面目に運命の人を探しているのだ。
ナンパなど、声を掛けられたらついていく。合コンで連絡先を聞かれたら、すぐに教えて、いつの間にかデートをしている。相手が好みじゃなかったとしても、話してみなければわからないだろうという考え方。出逢いに前向き。
そこは私が尊敬しているところで、とても良いことだと思っている。
けれど大体は、なんとなく違うと言って続くことがなかった。
「……でも、怖くない? カッコ良かったの? 何歳ぐらいの人?」
と、菜緒ちゃんは、私よりも先に正気を取り戻して、沙織ちゃんに相手のことを聞いていた。
「二十六って言ってた。スーツ着てて、見た目もそんなに悪くなかったような……背も高かった。」
と、答えた沙織ちゃん。
「じゃあ、メールの感じは? いい人っぽい?」
と、菜緒ちゃんが聞くと、沙織ちゃんは黙り込んだ。
そして、沙織ちゃんは、意を決したかのような表情をして、パンっ、と手を合わせた。
「今度、合コンしようって。お願いっ、一緒に来て!!」
と、沙織ちゃんは、私と菜緒ちゃん、二人に対して頭を下げた。
「えー……。」
と、ものすごく面倒くさい、といった顔を露にした菜緒ちゃん。
そして私も、合コンは苦手というか好きじゃなかったので、えー、と思った。
私が合コンに行くと、テーブルの端に座り、幹事じゃないのに幹事まがいのことをすることになる。
「これ、注文しといて。」
と、男の子からも女の子からも言われ、注文係にならなかったことがない。
バーで働いたこともある私は、外面は良かった。
初対面の人と話をするのは得意で、物静かな人にも話を振ったり、誰かに繋げたりとするようなところがあった。
(あくまで初対面の人に対して。同僚とかになってくると、どんどん殻に閉じこもる。)
グラスの空きチェックなどに目を光らせる癖があり、プライベートなのに仕事みたいな感覚になってしまって、とにかく疲れてしまうのだ。
そんな私に、合コンの場での出逢いから、次につながることは一度も無かった。
なので、合コンには、あまりいい思い出がなく、面倒なだけと思っている。
けれど、沙織ちゃんに、こうも頭を下げられると断れない。
「一人じゃ怖いし、ね、お願いっ。」
と、沙織ちゃんに頼み込まれた私と菜緒ちゃんは、わかった、と頷くことになったのだ。
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