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悲哀の慟哭
プロトカリバーは、空高く滞空するエクスカリバーに向かって金色の光線を放った。それに対して全く同じ光線を放って相殺する相手に、プロトカリバーは怒りを向け続けている。
「猛仙、俺はあいつの援護をする。積もる話を終わらせてからこっちにこい」
ヘキサボルグに肩をたたかれると震えが収まり、猛仙は笑い出す。その狂気を体現したかのような姿に、二人の姉は後ずさる。エクスカリバーも何か不穏な空気を感じたらしく攻撃を仕掛けた。しかし、背中から飛び出した赤い棒状の物体がそれを防ぐ。
遠く離れたミナも、なにか不審な感覚を覚える。と、プロジェクターが突然別の画面を映し出した。四方八方に強烈な弾幕を張る巨大な戦艦と、それを操っていると思われる三人のよく見た顔が出てきて、小声で「モウセン……ヘキサボルグ……」とつぶやく。ギャラリーのどよめきも最高潮になりつつあり、いつ大パニックが起きてもおかしくない。
が、プロトカリバーと猛仙の様子がおかしい。猛仙は自身の持つ五行五属性の性質を抑えきれずに七色の光が体全体から漏れ出している。プロトカリバーの方も、くすんだ光を放ちながら同じ形の剣を持つのっぺらぼうに光線を打ち続けている。
「アッハハ……! ……俺の手で殺せなかったのは残念だなぁ。あれ? 俺 なんで? おれ オレ……」
「も、猛仙ちゃん……?」
猛仙は戦う意味を見失い、ただ怒り狂う妖刀になってしまったのだ。親がした事は許されるべきではない。裁いて欲しかった。目にものを見せてやりたかった。最も恐れる力で、ねじ伏せなければならなかった……彼の原動力となっていた柱が折れてしまった事で、根性で保っていた復讐心が行き場を失う。頭を抱えて叫び声を上げ、前のめりに倒れる。プロトカリバーもさすがに攻撃を一旦停止し、猛仙を助けようとする。
――猛仙の意識が消えた。二人の姉が駆け寄るも、猛仙に触れるか触れないかという所で弾き返される。間違いなく電磁バリアを張っているのが、周りを流れる静電気で分かる。
「そんなになるまで……」
万樹は腰に差している短刀に手をかけると、鞘ごと抜く。電磁バリアに触れると、『パン』というラップ音と共に解除されてた。
それを見たプロトカリバーは、仇敵を捨て置いて猛仙の方に駆け寄り、同時に彼女を援護していたヘキサボルグも向かう。黒百合が仰向けにすると、怒りで壊れたのだろうか、元々半壊していた鎧が砂のように崩れ、風に乗って飛んでいった。
剥き出しになった腕はいくつもの刀傷や銃創が付けられており、爪の一部は誰のものかも分からない血液がこびりついてネイルのようになっている。
猛仙の状態と周りの動きを見たエクスカリバーは、なにか思うところがあるのか少し頭を抑えた。そして、たった一言「二人とも、終わったら戻ってきてください」と言い残し人型の光が剣の中に戻ると、すうっと消えてしまった。
――ミナは入学式の間中、猛仙とヘキサボルグ、プロトカリバーのことが心配でならず、それ以降何も問題は起きず、アメノカクヤのスピーチから続行されつつがなく終わった事も大して嬉しくなかった。
入学式が終わるなり海に走っていく。ヒールを履いていたので走りにくいし痛いが、皆の方がもっと痛いはずだ。海辺に立つと、あの戦艦は影も形もなくなっていた。近くのテレビ局だろうか、リポーターの声が耳に届いた。
「あれ!? 消えてしまいました……一切の痕跡を残さず……」
……カンで探すしかない。公園の時と同じように、 海際にある砂防林に向かう。あまり鬱蒼としてないおかげで人影も見つけやすい。
すると、ヘキサボルグの後ろ姿が見えた。例の六又の槍を握っており、ひと目でわかる。
その向こうには、モデルかと見まごう様な整った顔立ちの女性が二人立っている。よく見たら猛仙に素の雰囲気や輪郭といった細部が似ている。もしかして彼が言っていた姉たちだろうか? とにかくヘキサボルグに声をかけた。
「何があったの?」
「お、ミナか。実はコイツが発狂してな。今は意識を失ってるが、起きたら確実に暴れるだろうな」
そう言いながら女性の腕の中に収まっている猛仙を指差す。ミナは抱いている女性を見ると、やはり。顔がどことなく猛仙っぽい。
「あなたは……モウセンのお姉さんですか?」
「あら、私たちが見えるのね。そうよ」
「その子は黒百合、四女。私は万樹……長女です」
あまり優しくなさそうな、つっけんどんな声を出す黒百合に較べ、万樹の方は一番上だからか物腰が非常に柔らかい。コミュニケーション能力がものすごく高いのがよく分かる。
「モウセンは家族に恨みを持ってるのに、大丈夫なんですか? それに……」
「言いたいことはよく分かるわ。この子は親を殺す気で出ていったけど、定期的にほかの武器や神々から所在は聞いていた。今回は1年くらい目撃情報がなかったから心配だったわ……私たちは助ける手を出すのが一日遅かった……後悔しなかった日は無い、次こそは守らないといけない」
ちょっと待て、とヘキサボルグが槍を黒百合に向けた。彼は険しい顔をしている。
「お前らまだ父親と繋がっているんじゃないか? そいつも猛仙を殺そうとし、猛仙もまたそいつを殺そうとしている。お前らはどっちの味方だ?」
「私達はどちらの味方でもない!」
「待ちなさい黒百合」
ヘキサボルグの鋭い言葉に、声を荒らげる黒百合だったが、万樹に諌められて黙る。腕を豊満な胸の下で組み、イライラしているようだ。
「そうね、私たちはどちらかと言えばこの子を助けに来た。でも、お父様を殺させる事はさせない。お母様も病気で死んでしまった……これ以上殺し合いは望まないわ」
「モウセンのお母さんが亡くなった?」
なんで、という問はプロトカリバーの声で遮られた。彼女に咎めるように見られ、ずけずけと心のキズに迫ろうとした己を恥じる。
「それは猛仙のせいですか? それとも別の要因ですか?」
「心労と、末期のガンね。その心労の大半はお父様とこの子だったから」
「あなた方は……それは許しているのですか? 彼は我々にとっての大事な仲間、手を出すのなら姉であっても退けます」
「うっ…………」
猛仙が呻いた。そして、一言小さく呟いた。
「オレノセイダ」
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