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疑似都市伝説-ライクロア-
――ねえ、知ってる? とある学校の2階のトイレで用を足すと、『白い装束の人』が現れてその人をどこかへ連れて行っちゃうんだって。そしてその人は――
「全身が白くなった死体で見つかるんだってぇ!」
「ぅぉあああ!!!」
「…………ッ!!」
スマホのライトで顔を照らしたミナが結末を言うと、プロトカリバーは声にならない悲鳴をあげ、トイレに行っていたらしく彼女の部屋に戻ってきた猛仙はその顔で思わず変な声を出してしまう。
「……作り話にしては結構面白いね。どっちかと言ったらミナの顔が怖かった」
「なんか今流行ってるのよね〜。でもね、最近それと似た事件が起こってるんだよ」
「は?」というような顔をする猛仙に、プロトカリバーが説明を加える。猛仙は姉たちと別れたあと、相変わらず我が家と工場を往復している。
「隣町の小学校で女の子が1人、石灰に塗れた状態で見つかった。都市伝説通り真っ白だったらしいですよ」
「それ、やったのはただのヤベーイ奴だろ。人でも同じ事が出来るぞ」
「どうやって遠足直後の混雑した個室から女の子を殺し、運び出せるって言うのですか?」
彼女の説明通り、現場はありえない状態だったのだ。猛仙も説明出来ずに黙り込む。現在、『消えた武器側』にとって大事らしいミナを護衛するのは二人。あとの四人……ヘキサボルグ達はそれぞれの役目を果たしているそうだ。
すると、ミナのスマートフォンが着信音を鳴らす。友達からの連絡だ。
「じゃあ、行ってくる」
「……怪異には気をつけなよ。その友達って人も巻き込まれるからね」
「うん……やっぱ着いて来て」
二人は頷くと、プロトカリバーが突然剣を出現させた。まるで怪異が必ず来るかのような態勢に、恐怖を感じながら家を出る。
「あー、ミナー!」
「おーい!」
大通りの向こうから名前を呼ぶ声がする。大学の友人の牟狩千誉だ。中学からのつきあいであり頭脳明晰で、昔からいつも助けられている。
今日は彼女とご飯を食べに行く約束をしていたのだ。なんだかんだバッチリメイクを決めて来たのだが、折れた刀のネックレスが絶望的に似合っていない。これの正体は化けた猛仙なのだが、どうもデザインがダサい。
出かける前に部屋の中で、大声で「えーい!」と言いながら腕を振り上げていた。たぶん絆の戦士を真似していたんだと思う。どこでそんな物を覚えたのか。
「そのネックレスどうしたの? いつも付けてないよね」
「え? こ、これはあれよ! 友達から貰ったの……!」
しどろもどろになりながら誤魔化し、店に向かう。が、千誉が突然『トイレに行きたい』と言い出した。ちょうど近くにコンビニがあるので、そこに入ることにした。
ミナは少し嫌な予感がしていた。ネックレスをついつい握り締めてしまう。小さい声が訴えた。
「いたい」
「……ごめん、でも大丈夫かな?」
「ダメだな。でもプロトカリバーが動いたから大丈夫」
個室から悲鳴が上がった。同時にトイレのドアが吹っ飛び、中から千誉を抱えたプロトカリバーが飛び出してきた。どこから侵入していたのか疑問だがプロトカリバーもちゃんと守っていてくれたことに安心した。ミナに彼女を投げると、ネックレスから水が飛び出して襲撃者を押し返す。
「え!?」
「トイレの水洗が壊れたのか!?」
コンビニの店員は勘違いしている。
水の奥に見えたのは、『白っぽい服を着た』辛うじて人型と認められる生き物だ。しかし水でぼやけてよく見えない。なんなんだあれは。
猛仙も、作り話とふざけていた事が現実に現れているのを目の当たりにし、「ヤベーイ」と呟くと、ネックレスの変化が解けてしまう。着地した猛仙は拳を握った。
「ここで潰しておく。ミナは飯食いに行っていいよ」
「そんなん出来るわけないでしょ!?」
言い終わらないうちに、彼の両手が空を切る。空気の流れが変わったが、それが到達する頃には、襲撃者は影も形もなく消えていた。
「へんだな」
「なんで直前まで気付けなかったんだろう」
人外二人はしきりに首を傾げている。それは都市伝説の具現化だからなのではないかと思った。それを伝えるとプロトカリバーはまだ不可解そうにしていた。
「だとしても……それなら……」
結局ご飯も食べず、憔悴している千誉を家まで送り届けると、まっすぐ家に帰った。
家の前に一人見慣れない影がたっている。手を挙げたその顔を、ミナは知らなかったが猛仙は知っているようで「どうした?」と歩み寄った。
その男は金色の目に赤い髪、右耳には勾玉の形をした耳飾りがぶら下がっている。そして裾の広いズボンを履いており、ポケットからはキーケースのような物がはみ出ている。
目線に気づいたのか、「おっと」とそれをしまい直すとミナに話しかけてきた。
「君が今の猛仙の保護者か? いやぁべっぴんさんだなぁ! 碧眼の子は久しぶりに見たなあ」
「三代目、また何か?」
威圧するように前に出る猛仙だが、一瞬で頭を抑えられる。あの猛仙より先に動け、かつ抑え込めるとは手練も手練だ。
本人を見下ろしながら「なんもしねえよ」と目を細めた彼は続ける。
「擬似都市伝説の事で話に来たんだよ」
「ライクロア?」
それは、歪められた物語。
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