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成れの果て
今までよりもひどい恐怖体験をしたミナは、最初こそガタガタ震えていたが二人の説得でなんとか落ち着くことが出来た。今は初めてのお菓子をむさぼる猛仙をぼーっと見ている。
「顔が汚いですよ」
頬にスナック菓子の粉を付けた猛仙の口をプロトカリバーが拭く。彼は自分でやると宣言しているのだが、どうも彼女は潔癖症らしく拭くのを辞めない。
ミナを襲撃した白服の者は、猛仙によって天叢雲剣に伝えられ、モデル不明の『擬似都市伝説』であると認められた。彼自身が直接赴けば良いのにと思ったが、それは嫌がっていた。
「俺は招かれざる客だからね、余計に争いの火種を増やしたくないし居場所を割られるのも困る」
「あんたお父さん以外にも何かやってるの?」
猛仙は「見てなかったの?」と言うと、初めてプロトカリバーに会った時の事を思い出させられた。そうだ、自分と大差ない程度の女の子が『父の仇』と言っていた。そして彼は、殺した。
「あんな感じで殺人……この場合は殺神かな? を繰り返してたからね。そーとー恨まれてるよ、俺は」
「でも、正当防衛じゃない? 違うの?」
「……じゃあさ、例えば自分の母さんが何らかの要因で凶器を持ち、突然そのへんの誰かを襲ったとしよう。でも返り討ちに会って死んじゃった。これも正当防衛に入ると思うけど、ミナは相手をどう思う? 仕方ないと、母さんが狂っていた、悪いのは相手じゃないって思える?」
「それは……」
プロトカリバーがあとを引き取った。
「どんな理由であっても、近親者が誰かの手で死んでしまうというのはそう易易と割り切れる物では無いということです。一般視点で危険人物に殺られたとなると理不尽に殺されたとしか思えなくなる。特に人間は精神が未熟すぎる故に、倫理より感情を優先してしまう」
何故か納得してしまった。彼によって葬られた戦士たちも、誰かの親であり子どもである。残されたものたちの無念は、筆舌に尽くしがたいだろう……
ミナの目から、何故か涙がこぼれる。たまらなく悲しくなってしまったのだ。怒り狂って彼に襲い掛かる顔、それを返り討ちにする顔。猛仙だけじゃない、プロトカリバーもヘキサボルグも、他の武器たちもそれを繰り返してきたのだ。
「なくなよ。…………だから、お前ら人ってのは素晴らしい生き物なんだよ。自分以外の不利益に涙を流せるのは人だけだ。俺達は人心なくして生まれ得ない。そして持ち主の心次第で強くも弱くも、正義にも悪にもなる」
「神様って最初に猛仙が言ったからこんがらがったのです。私たちは只の武器。人のために造られ、信仰によって神になる」
プロトカリバーがそう言うと、猛仙が目を閉じた。お菓子の袋が転がり、スナック菓子が散らばる。彼女も腰を浮かせた。
「休ませてすらくれないってか。それとも、あいつが引き寄せたか? とすると厄介だな」
「ええ、怪異同士が協力とは聞いたことがありませんが、外部からいじられたりすれば、あるいは」
「情報を吐かせられれば最高だけど、無理だろうなぁ」
「白服の奴……?」
「いや、複数。相当ゲリラ戦に手馴れてるな、包囲されちゃってる。下手な部隊より統率の取れた動きだ、烏合の衆だとしても頭目が相当かしこい、怪しすぎる……」
「情報通り、口裂け女の擬似都市伝説ですね? この国の話はあまり分からないから、ミナ。教えてください」
プロトカリバーが猛仙を見ると、うなづいた彼はおもむろにミナのベッドから布団を引っ張る。それをビニール紐で括り上げ、抱き枕のようにする。
「何してるの?」
「囮。ここ、街灯少ないからバレないぜ。数人引っ張れば呪いで消せる。ミナはその隙に説明してあげたら?」
「呪い……もうやめ……」
話を一言も聞かずに「いってきまー」と言うと、すぐさま窓から飛び出して行く。プロトカリバーの方は剣を出し、ミナを常に守れる位置、すなわち正面に立って迎撃の準備を整える。
「お願いします」
「うう……うん、分かった。」
数人の影が、猛仙を追いかけるのが見えた。覚悟を決めたミナは語りだした。
「……と言うわけなのよ」
「なるほど、本来なら単独なんですね。それが徒党を組んでいる……そして、身につける服が個体で違う。ますますきな臭くなってきましたね」
「どういうこと?」
「まだ確証がないので話せませんね。少し下がっていてください、お疲れ様でした」
―――――
「その口……いや、言わんでおくよ。しっかし、最新の都市伝説にしては格好が古いな、そいつはどこの軍だ?」
「…………」
一切喋らずに布団を狙うが、すぐに気づいたようだ。だがもう遅い。
「お前らから全ての栄養と食欲を奪う……」
折れた刀の先端から気味の悪い気体とも液体とも分からない物質が地面に落ちると、波動が裂けた口を容赦なく舐めるが、相手の外見に変化が起きない。
「何?」
「キサマ ノ チカラ ハ シッテイル」
と、ひとりが言うと
「キサマ ニハ シンデモラウ ワレラ ハ メイレイ ヲ ウケタ」
「こいつらァ!! お前の言ってたのは正しかったようだな、天叢雲……! 助かったぜ……感謝する」
後ろから何本もの刃が猛仙を貫く。小さい体が一瞬にしてむしろにされた。
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