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弱点
『あぁクソが!!』
無慈悲な刃が猛仙を貫く。強力な呪いにかまけ、相手を格下と侮った男は思いもよらない強者の攻撃で死ぬ――
「まさか俺が背後を取られるとは。背中には気を付けてたんだけどなあ……」
刃がどんどん食いこんでいるが、それを全く意にも介さず歩き出す。刺した数人が即座にミイラ化した。
ため息を着くと、足を止める。刺さっている剣がぶるぶると震えていた。口裂けの怪物達は、彼の体に水紋が浮かび上がっているのを確認した。
「キサマ マサカ」
「俺の能力を知っているって言ったクセに、俺の特性は知らない見たいだな」
「ミズノチカラ……!」
はずれですねえ、とニヤつく猛仙。右手から炎が現れると、水属性になっていた体が噴煙を上げ出す。剣は溶け落ちてしまい、地面に黒い跡を残しながらバラバラと後ろに置いて行かれる。
「ねえ。水蒸気爆発って、しってる?」
住宅街に衝撃波が打ち出された。彼そのものが爆弾になったのだ。爆心地にいた全員は跡形もなく消し飛び、ブロック塀が崩れる。瓦が飛び、ガラス窓がガタガタと揺れる。
「さあ、アレの場所を聞こうか……あ。全滅か……? はぁ、しまったやり過ぎた。直さなきゃ」
カップの破片の様にも見える物体が大量により集まり、どこから持ってきたのか漆喰の缶を持っている猛仙が立っていた。
接合面に塗りつけていると、彼の頭上からあれほど使わないと公言していた刀が落下してきた。
ブロック塀と漆喰に触れ、地面に転がる。すると、漆喰が自動でコンクリートを繋げ、倒れたブロックは全て元通りになった。
「プロトカリバーはやっぱ強いな」
目を細めてミナの家の方角を見ていたが、直ぐに立ち上がるとスタスタと崩れるミイラを後ろに二人のいる場所に戻っていった。倒れる瞬間から血を一滴も流して居ないのを、電柱の影からふたつの目が見ていた。
「弱い! 親玉ではないですね!」
光の棘で貫かれ、消滅していく。最初は太陽のように輝いていたのだが、次第にくすんだ灰色の光になってしまった。
――一部機能が無い それが彼女の弱点だ。光の『蒸留』と『抽出』を行ない、上澄みのみを放つ次世代の剣 の機能は存在しない。言わば『光の灰汁』を一緒に放出しているのだ。
この灰汁とも呼べるものは、浄化と真反対の性質を持つ。すなわち、負の助長である。そして冷却出来ないため、部屋はもはやサウナだ。
「奴らの味方をした……あっつい!!!」
「汗が……ああ! 教科書に……!」
ミナは近くにあった飲みかけの水を教科書にかけ、火を消し止めた。
残った6人の身体が大きくなる。純粋に体積が増しただけではなく、戦闘能力にも上昇が見られる。
ミナはちらりと後ろを見た。
『ワタシ キレイ?』
「うああ!!!」
両手を後ろで組み、顔の大きさに似合わないマスクを付けた女性がこちらを見ていた。その目は狂気に充ちており、心臓が凍りつくかと思った。これが親玉か。
ミナはかなり昔、『学校の怪談』という本を読んだことがあり、そこでは口裂け女に出会った際、「ポマード」と3回唱えると退散すると書いてあった。
口を開こうとすると、プロトカリバーが遮る。
「うっ……! ミナ、だめですよ!擬似都市伝説であってもそれらは所詮物語! もうじきナギリオウマが救援に来ます、それまで喋らないで下さい!」
忌々しそうにプロトカリバーを睨んだことから、その通りであることを理解したミナは口を抑える。口裂け女はまた『ワタシキレイ?』と聞いてくるがガン無視だ。
すると、口裂け女は後ろに引っ張られるように夜の闇に消えていく。同時に襲ってきていた奴らも消えた。彼女が一人切り倒し、住宅街には静寂が戻った。
布団と一緒に猛仙がこちらに来るのが見えた。歩く猛仙だったが、電柱のあたりで誰かと話しているようだ。救援に来ると言っていたナギリオウマかと思ったが、どうやら違う。声が聞こえ無いので誰と話しているのか分からない。
プロトカリバーの顔がまた戦闘の時と同じになっている。まさか口裂け女は猛仙に絡んでいったのか。
「ワタシキレイ?」
「だれ?」
「ワタシキレイ?」
「すみません、ききとれません」
やはり猛仙に魔の手が忍び寄っていたのだ。が、彼は適当な返事しか返さない。喋ってしまってるのはどうなのか。プロトカリバーに聞いたところ、「どちらでもない答え」だからルールに引っ掛からないからだそうだ。
「ワタシ……」
「すみません、よくわかりません」
ちょっと面白い。と言うか、なぜ音声認識? 暖簾に腕押しの問答を続けているが、程なくしてナギリオウマが来たようだ。猛仙の返答で全て察したらしく、話しに割り込む。
「ねー猛仙、わたし綺麗?」
「鏡を見よう!」
「ワタシキレイ?」
「私の方が綺麗だね。あなたは綺麗ではない」
「バカ!」
猛仙の言葉は遅かった。口裂け女の顔が彼女に向くと憤怒の形相に変わる。巨大な剣が握られるとナギリオウマを袈裟懸けに切りつける。しかし彼女は身体をしなやかに滑らせかわした。
「何してんだよお前ェ!」
「事実でしょ!!」
「黙ってろって言ったじゃねえか俺は!」
「うるさいクソガキ!」
「砕かれたいならそう言えよ!」
猛仙の足が大剣を持つ手を捉えると口裂け女は吹っ飛ばされる代わりに二人の目の前から消える。
ミナの後ろに長い髪がある。
「ワタシィィィ!! キレイデショォォォォォ!!」
凄まじい大声で発狂しながらミナの首を掴んだ。が、プロトカリバーが飛びついて赤熱した剣で腕を斬り飛ばすと、鼓膜が破れるのでは無いかというような大声を上げ痛がると窓から飛び降り、ナギリオウマが軍刀を抜こうと迫る眼前で煙となって消え去った。
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