失言なるこそ

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失言なるこそ

 彼女も相当に『美』に対してのプライドが高いのだとわかるその言葉は、残念なことに化け物を動かしてしまった。しかし強力な武器が三つがかりでようやく撤退に持ち込めるとは相当に強い。 本当に悪意に満ちた怪異である。いや、もはや怪異と呼べるのかすら不明瞭な領域に足を突っ込んでいる。しかし、いくら疑似都市伝説といっても、おおもとの都市伝説通りならあれはもともと人間であったということになる。誰かが犠牲になっているのだ。  猛仙とナギリオウマがこちらを見ると、プロトカリバーは窓を閉め切り、ミナを布団の中に放り込む。そして「もう見てはいけない」と言い、頭に手をかざす。 「あ……」  カーテンのかかる刹那、こちらを見る二人の目が闇夜にくっきりと輝くのが見えた。桃色と緑色。一瞬にして衝撃が窓を揺らすと、怪異が発生させていた夜より暗い闇は霧消し、ポールライトが点灯する。  強烈な睡魔に襲われる。遠い意識の中でも、三人が話し合う声がはっきりと聞こえてきた。 「俺は一回出かける」 「私と彼女は相性が良いと思う」 「あなたは任務を続行してください」  プロトカリバー以外の二人が家から消えた。今よりもさらに鋭敏に気配でわかるようになったのだ。二人とも「また来るよ」と言ったのを最後に、自分でも『寝た』と分かるほど深く眠りに着いた。  ――昏々と眠るミナを見るプロトカリバーは、複雑な感情を覚える。右手の親指を曲げると、裂けたような古傷が走っている。両刃の剣を扱うとたまにこの場所を切ってしまう。切れ味が良いとあまり痛まないので、いつの間にか大量の血を失う。すぐさま止血して事なきを得たなんてことのない傷だ。  だが、ミナを見ているとなぜかこの傷が気になるのだ。うずくわけでもない、痛むわけでもない。無性に気になってしまう。理由はわからないが、自分と彼女の間に何か、目には見えない繋がりがあったのだろうかと思う。立ち上がると、そうっと窓から闇に消えた。  あくる日、相変わらず起きたミナの前には誰もいなかった。 「みんなどっか行っちゃった?」  そう思いながら朝食をとり、大学へ向かう。キャンパスで授業を受けるという何の変哲もない一日を過ごし、家に帰る。流石に今日こそは何も起こらないという確信がある。  ああ、どうしてこんなところで変な男どもにひっかかるのだろうか。早く家に帰りたいのに。 「ミナちゃんじゃん! 今から飲むんだけど……」 「私飲めないから」 「弱い酒だから!」 「飲めない」  頑として拒否するミナに業を煮やす男連中だが、ミナは全く別のことを考えていた。小さな核爆弾だ……と、思わぬ人物が助け船を出してくれた。ミナを誘っていた連中がざわめく。 「あなたは猛仙を見ててくれた子……よね?」 「へ?」 「あ……!? モデルの『mizuha』じゃん! え! この学校だったの!?」 「mizuha? ……あのmizuha?」  同時に、猛仙が出会った当初に教えてくれた姉たちの名前を思い出した。 『上から、マンジュ、シャクヤ、シロユリ、クロユリ、。最後に俺』  とすると、彼女が俵絶の四代目、ミヅハということだ。思わぬところにいた『消えた武器』関係者だが、このことを彼は知ってるのだろうか。 「確か、猛仙のお姉さんですね、彼は……」 「いいわ。親を止めれなかった私たちをまだ恨んでるはずよ。大学までついて来てないのね、気に入った人にはずっと付いてくる子なのに」 「いや、あいつはもう姉たちを……」  ミヅハの顔が少し陰る。次の言葉は脅すような低い声だった。 「あの子を一人にしてはいけない 探して」 「一人に……? なんでミヅハさんは探さないんですか?」  真っ当な正論だが、デリカシーがないミナの質問にも、淡々と答えた。 「私たちでは出会った時点で戦闘になってしまう……あなたになら頼める。あなたには見える、見つけられる。もう一つは、監視の目がないとあの子は人殺しをせずにはいられない。妖刀としての衝動が強いし、それを抑える訓練をまともにしていない 。神刀になる前の私たちもそれに耐えてた……あの年で耐久出来るわけがない」 「……わかったけど……あとで向き合ってください。誠心誠意話せば分かり合える子です」  真剣な目でそういうミナを、驚いた顔で見つめるミヅハ。くるりと回れ右すると工場の方角に走り出したミナだった。
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