神器集結

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神器集結

 猛仙達三人は、「向こうが撃たない限りこちらからは撃てない」というイージスの特性を利用し、邪魔なイージス艦を外海に引きずり出すことに成功した。  そして、猛仙には一つ疑問が生まれていた。それを確認したい。 「プロトカリバー、エネルギー出力を最大にして」 「なぜ? リスクは大きくなりますよ」 「俺はアメノカクヤに話をしてきたい。単純に質問するだけだ、返答次第だけど最初は殺さず会話する。なんで普通の人間にもあいつが見えているのか、理解できない」 「ちょっと待ち……それは後にしなさい、あなたの目論見は当たりましたよ」  確かに彼の疑問はもっともだが、それを聞きに行こうと動こうした矢先に突然、同じ形をした槍の雨が降ってきた。プロトカリバーは主砲に突き刺していた剣を素早く抜くと、大きく振るう。強い風圧が発生し、槍の軌道が変わる。戦艦には一本も当たらず周りの海に落ちた。落ちるたび、高温のものが急激に冷やされた『じゅっ』という音がする。 「プロトカリバー、あなたは立派に役目を終えたじゃあないですか。なぜ無意味によみがえり、民や私たちにその刃を向けるのです?」  天に浮いている、黄金の輝きを放つ刀身。その光は本質的な正しさに満ちており、それが猛仙の苦手とする明るさとなって降り注ぐ。ヘキサボルグの方は、思わず立ち上がると、猛仙は頷き主砲がその剣に向けられる。プロトカリバーは露骨に殺意と敵意が入り混じった表情をする。 「お前には理解できるわけがないだろう。自分が生まれる前より存在する、確かにそこにあった存在が唯々お前のために使いつぶされ、お前の素体として形すら残らず……。私はお前が、お前の主が治めた国が大嫌いだ。お前など生まれなければよかったんだ、エクスカリバー!」 「やめとけよ。贋作じゃないだけマシだろ、あの剣は特殊だ……生まれるべくして生まれる、カードゲームで言う『タイミングを逃さない強制効果』だ」  ポケットに入れていた手を握り締め、怒りに震えているプロトカリバーを諫める猛仙。エクスカリバーから放たれる光が人型に収束する。顔も全くないのっぺらぼうだが、話し始めた。 「君は五代目俵絶ですね? 確かに、お姉さんたちと顔立ちが似ている。目を細めなければシャクヤにそっくりですね。でも、私の『強制浄化』を浴びても払われない闇……悪意ではなく、純度の高い復讐心ですか。心根は優しいのに、何があなたをゆがませたのですか?」 「宗教勧誘見てるみたいだぞ、そっちはカルトがトレンドかぁ?」 「幼稚な挑発ですね。そしてヘキサボルグ……異文明の置き土産、君はなぜ彼らに与する必要があるのですか? あなたには何か明確なものは無いでしょう」  ヘキサボルグは即座に、しかしきっぱりと言い切った。 「人はつながりが無ければ明日を生きることができない。王は民のために身を粉にするが、それでも人間だ。欲だってちゃんとある。だから皆がねぎらい認める。その思いが明日を生きる活力となる。こいつらは俺を認めてくれた。だから今はこいつらが民であり仲間だ、手を貸さないわけがないだろ」  のっぺらぼうは無言で剣を掲げた。その瞬間、プロトカリバーは直感的に理解した。いや、向こうがわざわざわかりやすく目印を作っているのだ。ほか二人も気づかないわけがない。 「この場所を誰かに教えている!?」 「気づくのが遅いですよ、プロトカリバー。協力し合っているのは君たちだけではない」  猛仙は力場を再生成し、一切の容赦なくミナが入学式を行っている会場に斥力を放った。エクスカリバーが攻撃してきた以外にも、彼はもう一つ嫌なことがあった。退却には人質が必要だ――――  それはやはり、彼女らによって止められた。猛仙が今もっとも会いたくない人物だ。自然と目つきが悪くなる。 「久しぶりね。猛仙ちゃん」 「そんな顔してないで、お姉ちゃんと話そう」 「万樹……お姉ちゃん。黒百合お姉ちゃん。何でここまで来た? あいつの場所をようやく教えてくれんのか?」  その質問は、二人がそろって首を横に振ることで否定された。黒百合が口を開く。 「私たちはあなたを連れて帰りたい。でも、それはお父様が認めないし、あなたの強さは完全にお父様を超えているからすぐ殺そうとしてしまうでしょ? だからこうして話しに来たのよ。ついでに、そろそろ能力を返してほしいし」 「お前の能力は借り物だったのか……?」  驚くヘキサボルグに、猛仙は頷く。猛仙が家を出る直前に、帰ってきた黒百合と遭遇してしまったのだという。 「私はこの子の顔をみたら全部分かった。だから身を守るために能力を渡したのよ。まさかお手伝いさんを始末しているとは思わなかったけど……アレはどういうつもりだったの?」 「あいつは親父の不倫相手だ。写真を送りつけてやろうかと思ったけど、あの場で家庭崩壊なんて起きたらお姉ちゃんが路頭に迷うだろうから控えた。人はそういうのを『ハメ撮り』っていうらしいよ? 持ちたくないからあげるよ」  猛仙は鎧の間から一枚の写真を取り出す。それを見るエクスカリバーは「下衆い」とだけ言うと特にそれ以上手を出すこともなく現れた時と同じ位置に戻った。彼はその写真を姉たちに投げると次いで耳に手を当てる。すると、ひものようなものが指にくっついて出てきた。それをするすると伸ばし、軽く引っ張るとプツンと切れた。それも黒百合に投げ渡すと、ふわふわと浮かびながら彼女の体に入っていった。 「ヘキサボルグ、盾形態になりな。概念無効! 対象は力場反応!」 「それがお前の本来の能力か」  突然、主砲がエクスカリバーに向けて火を噴いた。プロトカリバーに動力を任せていたので、強烈な対空砲火が浴びせられる。猛仙は艦橋にタッチすると、窓のある脇の出っ張りが変形し、ガトリングガンになった。そう、姉たちと一定以上の距離を取ってやり取りしていた理由は、能力を返した瞬間、自分の物よりもずっと強力な引力で捕まることを懸念していたのだ。  二人はため息をつくと、両手を広げてその意思がない事をアピールしながら、彼女らがしたかった話を披露した。 「猛仙、お母さんが死んだわ。お父さんは……まだあなたを追っているようよ、家を出て行ってしまった」 「出ていったァ? ……おかあ、は何か言ってたか」 「誤解を解きたかったって」  猛仙の目が小さくなると、手が震えだす。
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