4 本当に濱田課長ですか?

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「落ち着いた?」      ひとしきり泣くと課長が言った。      私たちはリビングのソファに並んで座っていた。      テーブルの上には涙と鼻水を拭った丸めたティッシュが山のようにあった。 「はい」と頷くと課長が優しい笑顔を浮かべた。    その笑顔を見てまた涙腺が緩みそうになったけど、慌てて涙を止めた。  これ以上バカみたいに泣く所を見られたくない。        テーブルの上を片付けながら、課長がどうしてここにいるのかを聞いた。 「それがさっぱりわからないんだ。君と駅に向かって歩いていたのは覚えてるんだが」 「それって課の飲み会の後の事ですよね」 「うん」      課長が頷いた。      飲み会から既に一ヶ月が経っている。 「その後の事は覚えてないんですか?」 「何も」      課長は自分が死んだ事も知らないんだろうか。 「だけど良かった。会社に行っても、家に帰っても誰も僕に気づいてくれなくて困ってたんだ」 「ご自宅に行かれたんですか」 「うん。僕の骨壺と位牌があったよ。四十九日が過ぎたら納骨するらしいよ」      ハッとした。 「僕は死んじゃったんだね」      課長が口の端を上げて寂しそうに笑う。 「すみません」 「なんで島本くんが謝るんだ」 「だって」 「そんな悲しそうな顔しないで」      課長がポンポンと頭を撫でてくれた。 「そうか。本当に死んじゃったんだ」      他人事のように言う課長がのん気で、ちょっとだけ笑いそうになった。 「受け入れられるんですか」 「受け入れるしかないよ。だって事実なんでしょ?」 「そうですけど……、あれ」 「どうした?」 「死んでるって事は課長、幽霊なんですよね?」 「そうなるだろうね。体はとっくに焼かれちゃったから」      課長の顔の前に手を伸ばして課長の小鼻を摘む。 「何だ。島本くん」      課長が鼻声になる。 「なんで幽霊の課長に触れるんですか? 今だって私の頭、ポンポンって撫でて」 「多分、君が僕を認識できたからだと思うよ。僕を見えない人には触れられなかったから」      鼻声で答えた課長は、鼻を摘まむ私の指をゆっくりと外した。 「そうなんですか。じゃあどうして私は課長を認識できたんだろう?」
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