1 あんなおじさん、好きな訳ないでしょ!

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 その日の夜、課の飲み会があった。      会社から徒歩十五分のピザとワインが名物の洋風の居酒屋だった。    私は課長から一番離れた席を選んで座った。昼間、課長と目が合ってから何となく気まずかった。   「島本さんは彼氏いないんですか?」    ビール三杯で上機嫌になった隣の席の江里菜が聞いてきた。 「そんなのいらない。だって必要ないもん」    私の答えに江里菜が驚いたように眉をあげた。 「えっ、島本さん、結婚とかしたくないんですか?」 「別に興味ない」    さらに江里菜が信じられないという顔をした。 「一人で寂しくないんですか?」 「寂しくないけど」 「休みの日とかって何してるんですか?」 「掃除したり、映画見たり、本読んだり」    江里菜が宇宙人を見るような表情を浮かべる。 「面白いですか? それ」    ムッとする。ずいぶんと失礼な言い草だ。 「何が楽しいとかって、人それぞれじゃない。佐々木さんにそこまで言われる筋合いないと思うけど」 「じゃあ課長の事、本当になんとも思ってないんですか?」    急に話が課長になり、口にしたビールを吹き出しそうになった。 「信頼できる上司だと思ってるけど」 「恋愛感情とかないんですか?」 「当たり前じゃない」 「よかった」    江里菜がほっとしたような笑顔を浮かべた。 「私、課長の事狙ってたんです」 「それって、お付き合いしたいって事?」 「はい。課長カッコイイし、仕事できるし、何よりも笑顔がすごく好きなんで」    課長の笑顔は私だけのものだと思っていたから、江里菜の言葉がショックだ。 「あっそ。だけど課長結婚してるよ。それに佐々木さんより二十才以上年上じゃない。いいの?」 「年の差なんて関係ないです。それに課長の奥さんって十年前に亡くなってるんですよ。それからは男手一つで娘さんを育てたらしいですよ。それでとっても娘さんと仲がいいんですって」    一年早く入社した私よりも課長の事を知っているなんて面白くない。なんか腹が立つ。 「ちょっとお手洗い」    席を立った。  
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