7 バイバイ、課長

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 家の中に通された。      薔薇がよく見えるリビングのソファに座ってコーヒーを頂いた。    彩さんは向かい側に座り、観察するように私を見た。 「あの、お父様から私の事を伺ってるというのは」    もしかして幽霊になった課長が今までの事を話したのかもしれない。課長は彩さんの近くにいるのかもしれない。期待に胸が高鳴る。 「やる気のある社員がいるって島本さんの事いつも褒めてたんですよ。会社の話はあまりしない人でしたけど、私も就職したら島本さんにみたいに一生懸命頑張りなさいってよく言われました」    彩さんが私の顔を見てハッしたように眉をあげた。 「あの、父の葬儀で泣いていましたよね」 「えっ、はい」 「島本さんって、父の恋人だったんですか?」  えっ! こ、恋人……。  「とんでもございません! 課長とはそのような関係ではありません。仕事でよくお世話になったので、つい泣いてしまったんです。課長は部下に手を出すような人ではありません」  課長の名誉の為、全力で否定した。 「そうですよね。すみません。実は私、結婚したい人がいて、その人が二十歳も年上だから父に反対されていたんです。年の差で反対していた父が島本さんみたいなお若い方と恋愛関係になる訳ないですよね」 「その通りです。ありえませんよ。私と課長も二十歳年が離れてますから」 「でも、好きになったら年齢差なんて関係ないと思いませんか?」    彩さんが真剣な表情を浮かべた。 「私にはわかりません。年上の人を好きになった事ないですから」    課長の為にそう言わなければいけない気がした。    彩さんがフッと笑った。 「今朝、夢の中に父が出て来たんです。そして『彩の気持ちはよくわかったよ。心から好きな人と結婚しなさい』って言ってくれたんです。夢だから私の願望かもしれないけど」  胸が熱くなった。    課長はやっぱり彩さんの所にいたんだ。旅立つ前に夢枕に立って想いを伝えたんだ。 「願望なんかじゃありませんよ。きっと課長が、お父さんが彩さんを心配して最後の言葉を伝えに来たんですよ」 「そう言っていただけると気持ちが楽になります。それでね、その夢の中で父が最後に言ったんです。『島本くんによろしく』って。それであなたが訪ねて来たものだから、つい呼び止めてしまいました」  また涙が浮かんだ。  課長の家に足が向いたのは課長が呼んでくれたからだ。課長は私にもメッセージを残してくれたんだ。    人差し指で涙を拭って、何とかこみ上げてくる感情を抑えた。
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