7 バイバイ、課長

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「どうぞ」        彩さんがテーブルの上に白い封筒を置いた。      宛名には見覚えのある課長の字で『島本あかり様』とあり、差出人の所には課長の名前があった。   「父が亡くなった日に家に届いたんです。切手を貼ってなかったから戻されちゃって。父って意外とこういう所抜けてたんです」      彩さんが笑った。  まさか課長が私に郵便を出していたとは思わなかった。  封筒の中には何が入っているんだろう……。 「今朝、父に言われるまで忘れてました。ごめんなさい」 「いえ。こちらこそ呼び止めて頂きありがとうございます」      一刻も早く、一人になって封を開けたくなった。 「あの、これで失礼します。いろいろありがとうございました」  封筒を受け取り、課長の家を出た。    彩さんは見送りに門まで出てきてくれた。    薔薇の甘い香りが漂っていた。  思わず足を止めて薔薇の方を見ると、彩さんが言った。 「島本さんの名前を見て思い出したんですけど、父が死ぬ直前に植えた薔薇があるんです。ほら、あそこの薄いピンク色の薔薇」    彩さんの指先に白に近いピンク色の薔薇があった。 「控えめな感じでかわいいですね」 「あの薔薇の名前、知ってますか?」 「いえ」 「『あかり』って言うんですよ」    彩さんが微笑んだ。 「余計な事言いました。ではお気をつけて」  彩さんがお辞儀をした。私も涙を堪えてお辞儀をして門の外に出た。  駅に向かって歩きながら、想いがどんどん大きくなってくる。    どうして私の名前と同じ薔薇を課長は植えたんだろう。    どうして彩さんに「島本くんによろしく」って言ってくれたんだろう。  どうして亡くなる直前に私に郵便を送ったんだろう?  課長の気持ちが知りたい。    居ても立ってもいられず、立ち止まって白い封筒の封を切った。    中には手紙が入っていた。
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