7 バイバイ、課長

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「この手紙でフォローしたつもりですか! 課長にフラれてどれだけ傷ついたと思ってるんですか! 私、三年も課長に片思いしてたんですよ!」 「ごめん」 「私の事が嫌いならはっきり言って下さい。中途半端に魅力があるとか書かないで下さい」    すまなさそうに見つめる課長に感情がどんどん溢れてくる。 「どうしていきなり死んじゃうんですか! どうして私の前に出てくるんですか! どうして私だけが課長を見れるんですか! なんで私の名前の薔薇なんて植えるんですか!……期待しちゃうじゃないですか……」 「島本くん……」  大きな手がそっと私の肩に触れる。触れた場所から課長の温かさを感じる。  課長はもうこの世の人じゃないとわかっているけど、生きているみたい。 「課長、私の事、嫌いでもいいから、傍にいて。いきなりいなくなるのはもう嫌です」 「嫌いじゃないよ」 「それって少しは想ってくれてるって事ですか?」    課長にギュッと抱きしめられる。  鼻先が課長の胸に当たって、課長の匂いがする。匂いだけじゃない、体温も、私の背中に回る強い腕の感触も感じる。 「少しじゃない。僕が今ここにいるのは君に会いたかったからだ。僕の一番の未練は娘じゃない。島本くんだ」  え……。私?  驚いて見上げると熱い視線とぶつかる。   「娘さんの結婚が許せないって言ってたじゃないですか? あれは何だったんですか?」 「娘の事も確かに心配ではあったが、一番は島本くんの傍にいたかったんだ」 「酷い。人の事振り回して」 「本当にごめん」 「悪いと思ってるなら課長の気持ちをちゃんと聞かせて下さい」  真っすぐに課長を見た。  課長はとても優しい目で見つめ返した。 「一緒にひこうき雲を見た日。あの時から僕は島本くんに恋をしてた」  胸がいっぱいになった。 「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか! 私たち一年前から両想いだったんじゃないですか」 「手紙に書いた通り、僕は相応しい相手じゃないからだ。君より二十も年上で、腰痛持ちのおっさんだから」 「そんなの知ってます。全部ひっくるめて課長が好きなんです」 「ありがとう。島本くん」      そう課長が口にした途端、課長の姿が透け出した。
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