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「それでも場慣れしていただかないと…遅くまでお疲れ様でした、後は私が社長をご自宅までお送りしますので」
奈緒がそう云うと、梶は腕時計を見て肩を竦めるなり苦笑した。時間は既に二十時を過ぎている。
「お疲れ様でした、また明日」
「お疲れ様でした」
高平に云うと、その背を見送って社長室を三度ノックした。
内から返事が有るのを確認して、ドアを開ける。広く取られた室内は、開放感たっぷりの落ち着いたクリーム色で、家具は統一されている。壁一面には硝子が嵌め込まれ、月明かりと下界を彩るネオンの光が美しい。
「社長?」
細川大樹が三人掛け用のソファーで、ぐったりとしていた。
「奈緒ただいま」
まるで自宅で待つ妻に接するような、大樹の声に背筋がゾクンとする。
奈緒はミネラルウォーターを小型冷蔵庫から一本取り出して、大樹の隣に座った。
「酔われたのですか? 傍に私が居ないからと、羽目を外すなんていけませんと、あれだけお話しましたでしょう?」
「…そんなには飲まなかったぞ? 気分が悪くなったのは、婦人方の香水でだ」
ああ、と奈緒も納得した。奈緒もきつ過ぎる香りには、抵抗が有る。だからといって、途中退場されては、仕事の時に困る。
大樹は乱れた前髪を掻き上げ、その手をソファーの背に置くと、隣に座る奈緒を見詰めた。
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