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美礼はくるりと体を反転させ、桜田門駅に向かって歩き出した。
高志はお堀に飛び込んだりはしないはずだ。
だって、美礼に約束したのだ。菅野の記録を破るという目標に向かって頑張ると。
だから、美礼も高志の涙に約束する。
自分も高志に負けないように、自分の人生を歩んでいくと。
高志に恥ずかしくないように…
うなじにかかる美礼の髪を押しのけるようにして冷たい風が美礼を追い越していった。
また、髪を伸ばそうかな…
復讐を誓って切り落とした髪を伸ばしても、何も元には戻らない。それでも、もう復讐は終わったのだから。
高志がくれた、目には見えない、言葉では言い表せない、何か。
それがあれば、心に広がったこの闇にもきっと耐えていける。そして、髪が伸びる頃には、きちんと前を向いていたい。
見上げた空には優しい月が頼りなげに浮かんでいた。
かつて高志と月ウサギの話をしたことを思い出す。今夜の月は欠けていて、そこに月ウサギの姿はなかった。
なぜか、この月を高志も見ているような気がして、美礼はずっと月を見上げていた。
こんな最後になって、やっと気付くなんて。
高志に恋をしていたんだな…
自分が思うよりもずっと。
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