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「別に送別会をされるほどの別れでもねーだろ。」
そう言って辞退しようとしたが、半ば懇願されるような形で宴会の席に引っ張り出された。そこに後輩たちの菅野に対する感謝の気持ちを強く感じて、菅野は素直に応じることにした。
宴会が始まると、次から次へと後輩たちが菅野のグラスにビールを注ぎに来る。
「菅野さん、ありがとうございました。」
「もっとコーチをして欲しかったです。」
「たまには顔を出して下さい。」
「社会人チームでの活躍、楽しみにしてます。」
そう言いながら、皆、容赦なくビールをなみなみとグラスに満たす。
そこには例年はいるはずもない卒業間近の四年生までがビール瓶片手に登場していた。
「何でお前らまでいるんだよ。これ、追いコンじゃねーだろ!」
そう菅野があきれたように抗議すると、彼らは口をそろえて言った。
「菅野さんの送別会に俺らが出ないわけないじゃないですか!」
いつの間に俺の送別会がメインになってるんだよ…
そう心の中でぼやきながら、菅野は黙って何杯もグラスを空けた。
菅野は決して酒が弱いわけではないが、こうも立て続けに飲まされていてはさすがに身が持たない。隙をついて席を立ち、外の空気を吸いに出た。
ついでに仕事の電話を一件片付けて、席に戻ろうと店の扉を開けると、そこに高志が立っていた。あまりに突然の登場で、驚きのあまりすぐには声が出ず、高志を凝視する。
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