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2-11
見当違いなことを訳知り顔で語ったのが恥ずかしかったのか、センパイは唇を尖らせる。
「それで」
話を再開したセンパイの表情にはまだ気恥ずかしさが残っていた。
「お前は俺を遠ざけたいようだが、生憎俺はお前から離れるつもりはない」
「なんで」
あっさりと俺の望みを切り捨てたセンパイに、思わず顔を歪める。センパイは俺の表情に気付いてなお余裕のある態度で言葉を続ける。
「誰と一緒にいるかは俺自身の選ぶことだというのが第一。俺はお前を気味悪く思ってない。それが第二。第三……は、俺がお前をお前の想像以上に気に入っている。それじゃ理由にならないか」
三つ目を言い淀んだセンパイは、しっかりとした目つきで俺を見返す。その視線の強さに内心ひるむも、納得のいかない俺はその目を睨めつけた。
「……迷惑です」
はねつける俺に、センパイはくっと眉を寄せる。
「お前は、すごく臆病なんだな。誰かが消えるのが怖くて、誰も傍に置くことができないんだ。今までなぜそうするのか分からなかったが、話を聞いてやっと分かった。霊感があることで人と距離ができたり、仲良くなった幽霊が成仏したり。そういう繰り返しがお前を臆病にさせている。違うか?」
見透かしたような瞳。完全な図星に、ハッと嘲笑が漏れた。
「そうですよ。合ってます。俺は臆病なんです。臆病で、愚かで、何度も同じことを繰り返しては後悔してる」
でなければ、マーサを好きになる筈もない。俺がマーサを好きになったのは、彼と初めて出会った時だった。萩岡先生が自分を見てくれないのだと泣くマーサがどこか神秘的で、心を奪われた。幽霊だと分かっていた。後悔するとも分かっていた。それなのに、言ってしまった。
『じゃあ、萩岡先生がお前を見るまで、俺はお前と一緒にいるよ』
ひとりぼっちは寂しいからな。へにゃりと笑ったマーサに、少しだけ、言ってよかったと思った。たとえそれが苦しみの始まりだったとしても。
「生憎、盛大な後悔の種を抱えてる真っ最中なんですよ。臆病者には、後悔なんて一度にいくつも抱える勇気なんて持てないんです」
「マーサのことか。魚沼お前、マーサのことが好きだろう」
ぴたりと言い当てたセンパイに、びくりと肩を震わせる。俺の反応を見たセンパイは、やっぱりなと独りごちた。
「なんで」
「またなんで、か。これで案外、お前のことは見てるんだ。それくらい分かる」
センパイは、ふっと皮肉げに笑う。珍しいその表情に、揶揄おうと開いた口を噤む。
「分かった」
言葉の唐突さに顔を顰める。経験則からして、センパイの唐突な言葉は碌なものではない。
「お前は俺を遠ざける。俺はお前の傍に寄る。お互いがお互いのしたいようにすればいい」
「はぁ?」
なんでそんなめんどくさいことを。センパイが近づかなければそれで済む話なのに、なぜ納得してくれないのか。俺の考えを読んだようにセンパイは目を細く眇める。
「お前が自分のことを教えてくれたから、俺も自分のことを教えてやろう。俺はな、千堂翔はな。これで案外、わがままなんだ」
欲しいものには、自分で策を弄さないとなぁ?
楽しそうに口角を緩ませたセンパイに舌打ちをする。
「センパイ、風紀の仕事好きすぎでしょう?」
「分かってないな、俺は不器用な後輩が好きなんだよ」
「アホくさ」
いつもの意趣返しのつもりか。揶揄うセンパイにそう吐き捨てる。離れてくれればよいものを。鬱陶しいと感じる反面、どこか温かいものを胸に感じて。「めんどくさ」ともう一度呟くと、センパイはむっと眉根を寄せた。
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