17時10分

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17時10分

・ 「痛い、膝また当たった」 「あー痛い、悪い」 「もう」 「いたたた」 「あ、そういえばさ」 「ん?何?」 「クロノスタシスって知ってる?」 「何それ?」 「誰かが言ってた」 「誰かって誰だよ」 「近くを通った人」 「それが誰なんだよ」 「知らない人」 「知らない人の話盗み聞きしたのかよ」 「聞こえてきたんだよ」 「…はい?何?聞こえない」 「聞こえてきただけだよー」 「だから聞こえないって」 「もう、面倒だな」 「なんて言ってたの?」 「なんでもない」 「なんか言ってたじゃん」 「いや、もういいよ」 「離れたら声大きくしてくれよ」 「大声出ないんだもん」 「情けないな」 「そろそろだから右寄って」 「はいよ」 ・・ 「セーフ」 「セーフ」 「そっちが動かなきゃそんなことしなくて済むのに」 「仕方ないだろ」 「まあそうなんだけどね」 「こっちは働きながら聞こえるように話してんのによ」 「うんうん、ありがと」 「適当だな」 「うーん、これで聞こえるー?」 「聞こえるー」 「毎回この声量は大変だよ」 「なんか言ったー?」 「…」 「そんなに声って出すの大変か?」 「声まだ出し慣れてないのよ」 「慣れろよそろそろ」 「しかし、あいつまたこっち見てるな」 「ん、あーあの人?」 「そう、いつもこれくらいになるとこっち見てくるんだよ」 「よくもまあ、ずーっと見てられるよね」 「ずーっと目が合ってんだよ、気持ち悪ぃ」 「目回らないのかな」 「しかも目つぶったかと思ったらまた見てきたり」 「何やってんのそれ」 「知らね」 「あ、右寄って」 ・・・ 「セーフ」 「ちょっとかすったよ」 「それくらい許せよ」 「まあいいけど」 「しかし、なんで人間てのは時間をこうも気にするのかね」 「日本人が几帳面すぎるんだよ」 「日本人以外見たことないくせによく言うわ」 「そういう話してたの聞いたことあるの」 「また盗み聞きか」 「違う、もう、またこの場から動くのやめるよ」 「やめろよ、直すとき目回るんだから」 「だったらそういうこと言わないでよ」 「はいはい、…はーあ」 「どうしたの?」 「いや、あいつは楽でいいよな、と思って」 「あいつ?あー」 「あいつずっと寝てんだろ、起きてる時間の方が短いだろ」 「よく見なよ、ちょっとずつ動いてるでしょ?」 「寝返りだろあれ、電池切れてんじゃねえか?」 「そんなわけないでしょ」 「あいつあれだけしか働いてないくせにめちゃくちゃ評価されんだよ」 「そう?」 「そうだよ、俺こんなに働いてるのに、誰も見て…あ、そろそろか」 ・・・・ 「痛い痛い痛い」 「いたーい、膝当たった」 「悪い、悪い」 「今日4度目」 「悪い」 「なんで事前に気づいててそうなるのよ」 「悪かったって」 「まあ、いいや、でもさ、あの人は見てるじゃん」 「あいつに見られたところで、記録に残らないだろ」 「暇つぶしだろうからね」 「もっと正当に評価されてえよ」 「んーまあ、確かにすごい働いてるよね、疲れない?」 「疲れるにきまってんだろ」 「まあそりゃそうか」 「とんだブラック企業だよ」 「ここって企業なの?」 「知らね」 「まあ、いつかは評価されるよ、それに働き口ないよりいいじゃん」 「そうなのかなあ」 「私たちデジタル化に対応できないんだから」 「まぁ俺アナログだしなあ」 「デジタルなら記録してもらえるのに」 「仕方ねえわこればかりは」 「…いやあ、にしても動くね、1秒たりとも休んでないもんね」 「そうだよ、しかし、ホントあいつはいいよなあ」 「はい、右寄って」 ・・・・・ 「…」 「…」 「それで、さっきの話はなんだったんだよ」 「何?」 「あれだよ、なんか盗み聞きしたやつ」 「盗み聞きしてないって」 「はいはい、わかってるって、あのー、クロなんだかってやつ」 「クロ…?あー、クロノスタシスね」 「そうそう、それなんなの?」 「なんかね、目の錯覚かなんかだよ」 「へえ、それが何?…あ」 「そう、あの人それで見てるんじゃない?」 「なるほどな」 「ね?ちょっとはやる気出た?」 「いや、でも違うな」 「なんで?」 「だって、止まって見えてんだろ?」 「見てもらえるならいいじゃん」 「違う、こんなに働いてるのに止まって見えてんだろ?」 「見てもらえないよりはいいじゃん」 「俺はこれだけ働いてることも評価してもらいたいんだよ」 「もう面倒だなあ」 「はい?何ー?なんか言った?」 「なんでもない」 「なんだよ」 「いやー、でも不思議だなあ、これだけ動いてるのに止まってるように見えてるなんて」 「そういえば電池切れても気づかれないときあるしな」 「まさか私たちが会話してるなんて夢にも思わないんだろうなあ」 「よし、右寄るぞ」 ・・・・・・
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