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日常
毎週金曜日、深夜の2時から僕は眠たい目を擦りながらテレビを見ている。
この番組との出会いは偶然のものだった。
RPGのゲームに飽き、チャンネルを変えたときに、彼女は真っ直ぐ立っており、カメラは彼女の後ろ姿を捉えていた。
彼女が着ているセーラー服は、僕が通っている高校のものに似ていた。
肩に届くか届かないかの髪をぶら下げた彼女を、僕は吸い込まれるように見ていた。
番組は唐突に始まる。
ありがちなタイトル名のテロップもなく、途中に挟まれるCMもない。
画面内の視点と時間は度々変わる。
彼女の目線、彼女を見つめる友達の目線、教室の後ろから教室全体を捉えた第三者的な目線、そして、登校中、授業中、放課後、様々だ。
しかし、共通しているのは、彼女の顔が一切映らないということだ。
彼女は基本的にテレビ画面の中で背中しか映らない。
たまに正面を向いたときは、人や物で顔が隠されてしまったり、彼女の下半身のみを映す視点に変わってしまう。
彼女の顔は最後までギリギリ映らない。
また、彼女が話している先生や友達は、なぜかモザイクで顔を隠された状態であった。
異常なのは顔がないことのみで、内容としては普遍的な学校生活そのものだった。
この異常さを除けば、彼女の高校での毎日を隠し撮りしているような、あまりに日常的すぎる映像であった。
彼女の目線から見える黒板、彼女の脳内に流れている独り言、彼女と友達の3日後には忘れてしまっているだろうくだらない会話。
彼女が考えている内容、彼女が読んでいる本、彼女が所属している部活、どれもが僕と似ていた。
それらどれもが共感できるものであり、僕は彼女に心を奪われていった。
この共感が共有できなかったときのことが怖くて、友達にこの番組の話題はしなかった。
なぜか、この番組を独り占めしたい、誰にも知られたくない、という気持ちすらあった。
ある日、新聞を読むと、あるチャンネルの深夜2時、「日常」と名付けられた15分間のドラマは今日が最終回だということがわかった。
これまでにストーリーと言えるような展開は何一つ起きていない。
恐らく今日も普通の学校生活を観察して終わるのだろう、と思って見始めた。
先生に急に答えを求められ、パニックになってしまう彼女。
昼ご飯でおかずを何から食べるか迷っている彼女。
放課後に廊下で友達と他愛もない会話をする彼女。
初めて見るのになぜか見慣れた彼女の姿をぼーっと僕は見つめていた。
番組が終わりに差し掛かり、彼女は学校から出て、何の変哲もない道を歩き始めた。
彼女の目線は公園でブランコに乗っている少女を捉えていた。
そこから目を逸らし、正面を向いた彼女の目線。
すると、画面上は彼女の膝から下に映り変わり、道の途中でぴたっと止まった。
スクールバックを左肩にかけた彼女の後ろ姿に視点が映る。
しばらくの間、その視点は変わらない。
今度は彼女の全身から徐々に彼女の上半身のみに焦点を当て始める。
そして、彼女の首が少しずつ画面の方を向き始めた。
彼女がついに振り向く。そう思った僕の体は、自然と画面に近づいていった。
こちらを振り向いた彼女の顔は、僕の顔だった。
混乱する僕に、彼女は僕の顔でにたりと笑っていた。
急に、彼女の姿は歪んでいき、学生服姿に着替えを済ませた僕自身の姿に変わった。
そして、これまでの話の登場人物のモザイクが外された映像が走馬灯のように流れる。
彼ら・彼女らの姿は服装と性別が違うことを除けば見慣れたものだった。
最後に、セーラー服を着た僕の顔をした彼女が、にっこりと整った笑顔を僕に見せた。
僕の心拍数が急激に上昇したことを感じ取った。
僕はどうやら僕自身に一目ぼれしていた。
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