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彼女は月が見たいなんて言い出した。
珍しい。
中でゴロゴロするのが好きで、寒いところなんて絶対に行きたがらないのに。
今日は綺麗なんだよーなんて言っているが、月は基本的に綺麗なものではないのか。
頭に浮かんだ疑問を振り払って、彼女の手を取り、外に出る。
あいにくの曇り。チラホラと雪も降ってきている。
白い息を吐いている彼女はそれでも外にいたいようだ。
手袋を忘れた彼女は笑いながら僕の手袋を奪い取った。
かじかむ前にポケットに手を突っ込んだ。
家の向かいにある公園に道路をまたいで歩く。
冬の寒さで光沢を帯びた道を注意深く歩く。
公園に着く。子供たちが雪合戦をしていた名残がある。
曇り空だが、いつもより少し明るく感じる。
スーパームーン、そういえば今日だか昨日だか明日だった。
珍しく外に出たいなんて言うと思ったらそういうことか。
しばらく外にいたが、月が見えなくて彼女は少ししゅん、としていた。
彼女の顔をじーっと見つめいていると、寒さで赤くなった頬がはっきり見えたような気がした。
空を見上げてみると、雲の隙間から大きな月が顔を出していた。
彼女は月を見て、微笑み、僕の方を見てまた微笑んだ。
そして僕の手を強く握ってきた。
月が綺麗ですね、と彼女に言った。
彼女はうん、と言って今度は腕を組んできた。
しばらく僕と彼女は月を見つめていた。
彼女がぶるっと小刻みに顔を震わせた。さすがに体も冷えてきた。
さて、そろそろ家に戻ろう。
ポケットから手を出して彼女の頬を触ると、ひんやりとしていた。
彼女はまた微笑んだ。
彼女に奪い取られた手袋越しに、彼女の手を握る。
また先ほどの氷の道を歩く。
遠くの方に車のライトが見える。
彼女は笑顔で急かすように道路を渡ろうとする。
すると、彼女は道の真ん中で足を滑らせて大きく尻餅をついた。
僕も彼女につられて、転んでしまった。
月のような大きな光が近づいてきた、と感じたときには、僕と彼女は固い何かに突き飛ばされていた。
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