夜の歩道は怪しく白く光っている

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
彼女は月が見たいなんて言い出した。 珍しい。 中でゴロゴロするのが好きで、寒いところなんて絶対に行きたがらないのに。 今日は綺麗なんだよーなんて言っているが、月は基本的に綺麗なものではないのか。 頭に浮かんだ疑問を振り払って、彼女の手を取り、外に出る。  あいにくの曇り。チラホラと雪も降ってきている。 白い息を吐いている彼女はそれでも外にいたいようだ。 手袋を忘れた彼女は笑いながら僕の手袋を奪い取った。 かじかむ前にポケットに手を突っ込んだ。  家の向かいにある公園に道路をまたいで歩く。 冬の寒さで光沢を帯びた道を注意深く歩く。 公園に着く。子供たちが雪合戦をしていた名残がある。 曇り空だが、いつもより少し明るく感じる。 スーパームーン、そういえば今日だか昨日だか明日だった。 珍しく外に出たいなんて言うと思ったらそういうことか。  しばらく外にいたが、月が見えなくて彼女は少ししゅん、としていた。 彼女の顔をじーっと見つめいていると、寒さで赤くなった頬がはっきり見えたような気がした。 空を見上げてみると、雲の隙間から大きな月が顔を出していた。  彼女は月を見て、微笑み、僕の方を見てまた微笑んだ。 そして僕の手を強く握ってきた。 月が綺麗ですね、と彼女に言った。 彼女はうん、と言って今度は腕を組んできた。 しばらく僕と彼女は月を見つめていた。    彼女がぶるっと小刻みに顔を震わせた。さすがに体も冷えてきた。 さて、そろそろ家に戻ろう。 ポケットから手を出して彼女の頬を触ると、ひんやりとしていた。 彼女はまた微笑んだ。 彼女に奪い取られた手袋越しに、彼女の手を握る。 また先ほどの氷の道を歩く。 遠くの方に車のライトが見える。 彼女は笑顔で急かすように道路を渡ろうとする。 すると、彼女は道の真ん中で足を滑らせて大きく尻餅をついた。 僕も彼女につられて、転んでしまった。 月のような大きな光が近づいてきた、と感じたときには、僕と彼女は固い何かに突き飛ばされていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!