甘く包まれる夜に ―君を、好きになりました。<番外編>―

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甘く包まれる夜に ―君を、好きになりました。<番外編>―

「悟、ほら夜のお薬飲もうな」  紬は小さな悟の体を大きな草悟用のベッドから抱き起こし、錠剤を包んだゼリーを乗せた匙を口の中へと滑らせた。 「もう、おくすり、おわり?」 「まだだ、明日まで。しっかり治さないと、明日の大晦日の準備も、お正月も、悟だけベッドの中だぞ?」  言いながら、すべらかな頬から額へと手を滑らせて、熱が無い事を確かめる。 「おねつ、ない?」  されるがままになっていた悟が、少し緊張した様子で見上げてきた。父親である草悟から、今日一日、熱が出なければ、明日の大晦日から布団を上げて良いと、今朝言われていたからだ。 「ん、下がっているから大丈夫。ととに言っておくから、今日はお休み」  そっとベッドへと悟を戻し、その小さな頭を撫でた。  悟が突然高熱を出したのはクリスマスの翌日。保育園から迎えの要請が草悟に入り、年末繁忙期真っ只中の彼から、定時上がりが出来そうだった紬へと連絡が入った。  古い家族用マンションに単身で住んでいた紬の元に、草悟と悟がやって来て一年になる。  紬と草悟が恋人になって半年ほど。甘い時間も必要な蜜月ではあるが、紬と草悟は、それぞれに部屋とベッドを用意して、別々に寝起きをしていた。  元々、身辺が落ち着いた草悟は、悟と二人で住むアパートを探していたが、紬の方が二人と離れがたく、一緒に住む事を提案したのだ。同じ屋根の下に暮らすことが出来るのだから、寝室が別であることくらい、大した問題ではなかった。いえば紬の方の我儘なのだから、むしろ幸せだ。  ただ、草悟は甘えたい盛りの悟にも、小さな部屋を与える事に拘った。  元は空き部屋だった草悟の部屋は、小さな悟と一緒に使用しても、さほど窮屈ではないはずだ。それでも大人二人の部屋よりは多少狭い間取りの元物置部屋を、悟に欲しいと草悟は言った。 『ととか、むぅか、悟が寝るまでは必ず傍に居る。ただ、ととも、むぅも、悟が寝た後は自分の部屋に戻る。良いか?』  小さな手を引き、“子供部屋”へ初めて悟を案内した日、草悟は我が子に真っ直ぐな瞳で問いかけた。  どんな反応を返すのだろう。  悟には、もう怖い思いも、強過ぎる我慢もしてほしくはなかった。
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