甘く包まれる夜に ―君を、好きになりました。<番外編>―

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 少しでも拒絶する素振りや、真っ黒な瞳が恐怖に歪み潤む時は、草悟に考え直してもらおうと心に決め、紬が固唾を飲んで見守っていると、悟は不意に「わっ、わ!」と驚きに目を輝かせる。 『ねんねまでは、いっしょ?』 『約束する』 『やったぁ!』  一気に喜色に頬を染め、ぴょんこぴょんこと飛び跳ね、『下に響くから飛ぶな』と草悟に窘められるほど喜びを爆発させた。  あまりの喜び様に理由を草悟に尋ねると、 『俺は仕事と託けて家に帰らなかったし、彼女はあんな状態で、悟は添い寝経験がほぼないんだ』  と、切ない理由が返って来た。だからこそ落ち着いた今、一緒の部屋で良いのではと紬は思うのだが、草悟には草悟の考えもあるのだろうと、そのままにしてしまった。  そんな、普段は子供部屋のベッドに寝ている悟は、草悟のベッドで寝るという“少し特別”な状況に、はにかむように微笑んでいる。 「ととのおふとんも、おわり」 「悟はずっと、ととのベッドで一緒に寝たいと思わない?」  紬はずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。草悟の提案のままに子供部屋を作ってしまったが、やはり寂しい思いを我慢し過ぎてはいないかと。 「ん、サトは、おヘヤすき。ととのおふとんすき。むぅのおふとんもすき」 「えっ? 俺?」  いつ悟を自分のベッドに入れたかと考え込んでいると、「おーい、ととも紬と一緒に寝たいぞぉ」などと気の抜けた声が、部屋の入り口から聞こえてきた。 「草悟お帰り、お疲れ様」  仕事後の少しくたびれた雰囲気を纏いながら、それでも穏やかに「ただいま」と微笑んだ草悟も、今日でようやく仕事納めだと言っていた。  そんな姿に、毎日顔を合わせているにも関わらず、紬の鼓動は軽やかに跳ね上がる。 「ととっ、かえりっっ」 「悟、熱は下がったか?」 「むぅ! ないね」  大小二つの視線を向けられて、コクリと頷いた。 「うん、下がった」  傍に草悟が居る。小さな悟が居る。  去年の二人はまだ殺伐とした状況にあって、常に明るく振舞ってはいたけれど、心穏やかな新年を迎える事が叶わなかった。 「明日は皆で一緒にお正月準備しよう」 「あぁ可愛い! 紬が可愛い! 補給させてくれぇ」  背後からぎゅうぎゅと音がするほど抱き締められる。 「ちょっとっっ、悟の前で! コートも脱がないでっっ冷たいだろ!」  どうにかしてその腕から逃れようとしていたら、じっと悟がこちらを見つめていた。 「さ……悟……?」  あまりに静かな悟の瞳の色に、先ほどまでは明るく跳ねていた紬の鼓動が、ぎこちなく引き攣る様な音を立て始めた。  さすがに大人の男二人が、子供の目の前でじゃれ合う姿を見せてはいけなかった。
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