ただいまとおかえり

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ただいまとおかえり

「パパにこの話、する?」  暗い玄関に座り込んだままのエリが聞く。やはり座ったままのマリが首をふる。 「だよね」  ふたりは『街』の画をみつめた。画はふたりがためいきをつく前と同じだった。街に暮していたころの、父の画のまま。  パチ、という音と共に灯りがつく。 「なにをしているのふたりとも。いつ帰ってきたの?」  エプロンで手をふきながらやってきた母が首をかしげる。 「乙女も年を取ったわね」  マリが意地悪く言ってみせるのを、エリが小突いた。 「またそういうことを言う」  ふたりが笑っていると、音を立てて玄関の引き戸が開いた。 「やあ、なんだいみんな、こんなところで」  帰ってきた父が、不思議そうに目をぱちくりさせる。 「「ただいま、パパ」」  ふたりが言う。 「おかえりなさい。って、パパも『ただいま』なんだけどね?」 「そうね」 「そうかも」  父と双子が微笑み合う。その様子を見ながら、幸せにみちた声で母が言う。 「みーんな、おかえりなさい」  あの日から双子はそろって作品を作った。エリが画を描き、マリが詩を書いた作品を、ふたりは『あたらしい街』と名付けた。その画と詩は、他の誰の目にも触れることはなく、ふたりの部屋にそっと飾られている。  『あたらしい街』   こぼれる陽光   さえずる小鳥たち   水は豊かに流れ   木々は天へと手を伸ばす   あたらしい街   きらめきの街   たくましい新王は   灰色の瞳で街を見つめ   緑の絨毯の上では   白い花が風にそよぐ   空を舞うヒバリと共に   人々は歌う   あたらしい   この街のうたを!   きらめきの街   川に抱かれ   歩みを止めぬ人々の   未来を共に生きる   緑は燃え   風が歌う   きらめきの街   はじまりの街   明日を告げる   たしかな希望                             おわり
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