第4話 青衣の魔貴族

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 2. 「いきなり剣を突きつけて脅すなど、少し失礼なのではないですか?」  若者が言った。不満げに。怒っているのかもしれない。  だけど。なんでストーカーに逆ギレされなければならないの? 「あなたが私のあとを、気持ち悪く、不気味に、ずうっとつけてきたからでしょう。正体も目的もわからないものに警戒するのは当然。どれだけ怖かったか、不安だったか、わかる?」  七都は、青いマントの若者を睨む。 「では、正体と目的を明らかにすれば、気持ち悪くも不気味でも、怖くも不安でもなくなりますかね?」  彼が言った。 「聞いてみないとわかんないけどね。その可能性は高い」  七都は一応剣を下ろし、滑らかな所作で鞘に差し込んだ。そして地面に降り立ち、少し離れた正面からその若者を見つめる。 「多少は剣を使えるようになったと見えますね。化け猫どのの教え方がよかったのかな」  若者が言った。  ものすごく冷たい氷入りの水を、頭から全身にかけられたような気分だった。  七都は、鞘に収めたばかりの剣に手をかける。  この人……。私のことを全部見ている……? 「あなた、誰?」 「私は、キディアス。デフィーエ伯爵」  彼が名乗った。  キディアス?   カーラジルトと同じく、伯爵さまなんだ……。 「で、何者? どこの魔神族?」 「水の魔貴族です」  キディアスが答えた。 「水……?」 「そう。水の魔王シルヴェリスさまのおそば近くに仕えています」  シルヴェリス……!  すると、ナイジェルの側近!?  七都は剣から手を離し、改めてまじまじと目の前の魔貴族を眺めた。  キディアスは冷たい目で七都を見つめ返す。凍った冬の海の色だった。  この人は、ナイジェルのことをとてもよく知ってるんだ……。私なんかよりも、ずっと。  だけど、ナイジェルの側近が何の用なの?   何で私のあとをつけてくる? 「えーと。ナイジェルは、その……」  七都がナイジェルの名前を口にすると、キディアスは七都を鋭い目つきで見つめた。  こんな冷たい目で誰かに見られたことって、今までないかもしれない。しかも、敵意や憎悪の混じった視線で。  カーラジルトのやさしい目とは対照的だ。七都は、思う。  怖いな、この人。  私のこと、決して好きではない。それどころか、きっと嫌っている。それがよくわかる。 「あの方をその名前で呼ぶのは、あなたぐらいでしょうね」  キディアスが、いまいましげに言った。  何か怒ってる……。  七都は、溜め息をつきたくなる。 「だって、彼、自分でそう名乗ったんだもの。今さらシルヴェリスなんて言われたって、そんなふうには呼べないよ。私にとって、ナイジェルはナイジェルなんだから」  キディアスは、ますます温度の下がった冷たい目で七都を見る。  怒りが体の奥深くで、静かに燃えている。そんな感じが伝わってくる。 「ナイジェルは……」  『元気?』と訊こうとして、七都は中止する。  そんなことを訊いたら、この魔貴族は間違いなくブチ切れそうだ。 「ナイジェルは、どうしてる?」  七都は質問を変えたが、キディアスは七都のその質問を聞いて、やはりブチ切れたようだった。  髪が逆立って、目が怒りで溢れそうになっている。体が小刻みに震えている。  七都に対する感情をかろうじて抑えているようだった。  たぶん私が何を聞いても、この人は切れたんだろうな……。  七都は、軽く頭を抱えたくなった。
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