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「どうしてる、ですって?」
七都は、一歩後ろに下がる。
話しにくいなあ。なんか興奮してボッワボワになった猫に怒られてるみたい……。
「あの方がああいう状態になってしまわれたのはご自分のせいだと、あなたは自覚しておられないのか!?」
キディアスは、叫ぶように言った。
ああいう状態……。
腕のことか……。
そうか。それでこの人、私を……。
「あれほど美しかったあの方が、あんなおいたわしいお姿に……」
キディアスは、うつむいた。
「ナイジェル、具合悪いの?」
七都は、訊ねる。
別れたときは、元気そうだったけど……。
片腕がなくなってしまったのだもの。精神的にもショックを受けてるだろうし、かなり落ち込んでいるのかもしれない。
「もしかして、部屋に閉じこもって、臥せってる?」
「あの方は、あんなお体になっても、外に出て行こうとされる。部屋から出て行かれないよう、監視させていただいている」
「するとあなたは、ナイジェル、つまり水の魔王さまである自分の主君を幽閉してるんだ」
七都が言うとキディアスは、七都をキッと睨んだ。
「あのお姿を外にさらしていただくわけには参りませんから。ご自分では、こだわらぬとおっしゃっておられるが」
「ナイジェル、性格、おおらかだものね」
七都は、『ノーテンキ』と言うのはやめておく。そんなことを口にしようものなら、火に大量の油どころかダイナマイトだ。
「キディアス、私を恨んでるの?」
「お恨み申しあげますよ、ナナトさま」
キディアスが低い声で言った。
「あなたのせいで、あの方は腕を失われたのですから」
「やっぱり、私のせいなんだ?」
「あなたがこの世界に来られたせいです」
キディアスが、腹立たしげに呟く。
「ユードのせいじゃないの? ナイジェルの腕を奪ったのは、ユードだよ。彼がナイジェルの右腕を陽だまりに押し付けたの。それで、ナイジェルの右腕は太陽の火に焼かれて、炎に包まれて……」
七都は黙る。キディアスが、怒りではなく、恐怖に満ちた苦しげな表情をしたからだ。
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