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「私が君に対してこういうことが出来るのも、これがもう最後だ。本来は君を抱きしめるなど、許されないことなのだから」
「シャルディンは平気でやりそうなのに……」
「だから私は、彼ではないからね」
カーラジルトは、七都の頭をいとおしげに撫でた。
「君の母君にも、こういうことは出来なかったよ」
「あなたは私のお母さんを知ってるんだよね。……ね。私、お母さんに会えるよね?」
「会えるよ、きっと。私も会いたい」
それからカーラジルトは、七都をやさしく引き離す。
「では、お行き、ナナト。君の目的の場所をめざして」
「うん。ありがとう、カーラジルト。きっと私は、わがままで、自分勝手で、扱いにくいお姫さまだったろうね。ごめんなさい」
「いや。魔神族の姫君の中では、ましなほうなんじゃないかな」
七都は背伸びをして、カーラジルトの頬――唇のすぐ横あたりにキスをした。
カーラジルトは、びっくりしたような表情をする。
「セレウスにもシャルディンにも、お別れにキスはあげたから、もちろんあなたにも。婚約者がいるから、唇は遠慮しとく」
「ありがとう。ナナト。我が姫君」
カーラジルトは、再び白いグリアモスに変身した。
彼は一度だけ七都を振り返り、それから風になって、走り去った。
木々の枝が揺れ、空気が渦巻く。
やがてそれもすぐに消え去り、元の夜の静けさが戻ってくる。
七都は、しばらく立ち尽くした。
またひとりになってしまった。
言いようのない寂しさを感じる。心のどこかの一部分を失ってしまったかのような。
でも、彼にもまた会えるよね。だって、同じ風の魔神族なんだもの。私の側近になる人だもの。
カーラジルトに教えてもらったことは、忘れない。体でも頭でも覚えている。
今度はぐれグリアモスに遭遇したって、前よりはずっとまともに戦えると思う。
(ナナトさま!!)
誰かが、頭の中に話しかけた。
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