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(シャルディン?)
七都は目を閉じる。
銀の髪に赤い目。アヌヴィムの魔法使い、シャルディンの姿が現れた。
七都は、彼の姿を見てほっとする。
(また、危険な目に遭われていたのでは?)
シャルディンが、心配そうな顔をして訊ねた。
「ううん。いっぱいのグリアモスに襲われそうになったけど、助けてもらった」
(しかし、あなたの意識に接触出来ませんでした……)
「カーラジルトだよ。特殊な魔力を使って、剣を教えてくれたの」
(では、会われたのですか、化け猫カーラジルトに)
「うん。あのね、普段は彼、口なんか裂けていないから。あなたが見たとおりの美青年だよ」
(なんだ。おもしろくない……)
シャルディンが、残念そうに呟く。
「彼は魔貴族なの。伯爵さま。カーラジルト・アールズロア伯爵。将来、私の側近になってくれる人かもしれない」
(では、いつか私も会えるということですね。セレウスさんにお会いするのも楽しみですが、カーラジルトさんにお会いするのも楽しみです)
「そうだね。いつか三人揃って、会えるかもね」
(……ナナトさま。あなたが魔の領域の中に入ってしまわれると、私はもう、あなたに接触することが出来なくなります)
シャルディンが、ためらいがちに言った。
「そうなの? それは寂しくなっちゃうな」
(お気をつけて。決して無茶をなさってはなりませんよ)
「わかってるよ。あなたも私のことばかり気にしてないで、自分の生活を大切にしてね」
(それは無理ですね。私があなたのアヌヴィムである限りは)
「風の都はすぐそこだから。絶対に無事に到着してみせる。あまり心配しないで。じゃあ、今度会うときまで元気でね」
(ナナトさまも、どうかご息災で)
七都は目を開ける。
そして再び地の都をめざして、足を踏み出す。
セレウス。シャルディン。カーラジルト。あの三人が集まったら、いったいどんな会話をするのだろう。
七都は、ちょっと想像してみたりする。
「……きっと、トリオ漫才だよね」
七都は頭を上げ、ますます光を増した月を眺めた。
しばらくグリアモスのまま走っていたカーラジルトは、やがて魔貴族の姿に戻った。
それから、七都を残してきた方向を振り返る。
「ユード。我が姫君の唇を奪ったのは、許しがたいが」
彼は呟いた。彼が七都の体の中に入っていたときに、七都自身の記憶として見たものを思い出しながら。
「彼の額にあったあの口づけの印は、おそらく火の魔王サーライエルさまのもの。おまけに、シルヴェリスさまも彼をお気に召しておられるようだし。近づかぬに越したことはないな」
そしてカーラジルトは、月の光が満ちた景色の中に、休憩するようにしばし佇んだ。
「私も近いうちに、一度風の都に帰ってみます。……姫君。あなたはその美しい赤い目で、風の都をじっくりとご覧になるがいい。あなたはいったい何を思われるのか……?」
七都とカーラジルトが別れた場所に、ひとりの人物が影のように現れる。
青いマントをまといフードを深く被ったその人物は、七都が歩いて行った、地の都に通じる道の彼方を眺めた。
そしてその人物もまた、七都のあとを追うかのように、ゆっくりと歩き始めた。
【第3話 化け猫カーラジルト 完】
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