第4話 青衣の魔貴族

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第4話 青衣の魔貴族

 1.  霧が突然切れ、その向こう側にそれは現れた。  見上げるくらいに高くそそり立つ、平たい塔のような闇色の門。『扉』というより、やはり『門』と形容したほうがふさわしい。  その表面には美しい幾何学模様めいたレリーフが刻まれ、左右の合わせ目がわからぬくらいに、ぴったりと閉じられている。  門は月の光を反射して、全体が淡い銀色の光の膜で覆われているように見えた。  地の都への入り口は、七都の前に突然姿を見せたのだった。まるで黒い幽霊のように。 「やっとここまで来た」  七都は、呟いた。そして、立ち止まって門を見上げてみる。  天に伸び上がるような門の両側には、門と同じ材質で出来た高い塀が続いていた。  塀と門の向こうには透明なドームの壁があるはずなのだが、そういうものの存在さえ感じられない。  ドームと空との境目もまた、全くわからなかった。門も塀も、何もない空に向かって聳えているように見える。  それもまた魔力か何かで、そのように感じさせるよう設定されているのかもしれなかった。  ところでこの門、どうやって開けるのだろう。  七都は門を見つめながら、少し不安に思う。  もしかして自動ドア?  避難所の扉みたいに、さりげなく開けって命令したら開くのかな。  何か技術がいるのかも……?  その時、門が静かに開いた。七都は息を呑む。  門の下の部分が左右に分かれ、四角に切り取られたようにスライドして開いた。  その四角の隙間から五、六人の人々が、笑いさざめきながら現れる。  彼らは何のぎこちなさも、さしたるこだわりもなく、ごく自然に門を通り抜けて出てきた。  彼らが通ってしまうと、門は再び閉じられてしまう。  あ、やっぱり自動ドアっぽい。  七都は、ほっと安堵する。  よかった。入れなくて悩まなければならない、なんてことはなさそう……。  しかも意外なことに、開き戸じゃなくて引き戸か。  門から出てきたのは、魔神族の若者が二人。残りの数人はアヌヴィムのようだ。  魔神族の美しい若者たちは、七都の横を通り過ぎるとき、七都に向かってにこやかに微笑みかけた。 <それ、いたずら?> <まあ、ほどほどにね>  七都の額の銀の輪に目をやって、そう言いたげに。  七都も微笑み返す。あまりうまくは微笑めなかったが。  彼らが行ってしまうと、再び静寂が訪れる。
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