抱いて 濡れて 溺れて 3

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抱いて 濡れて 溺れて 3

美影ちゃんが楽しそうにはしゃぎながら、 「でしょう?可愛いでしょう?薫がしてる口紅は春の新色なんだから。モデル仲間にもらったんだぁ」 と、ドヤ顔をしながら言った。 「そうなんだ。薫、すごく似合ってるわよ」 「お母さん・・・」 そうじゃない。 そうじゃないよね、お母さん。 もう、20代半ばにさしかかろうって男が、こんな格好してる時点で、おかしいって思って。 ボクは深い溜め息をついて、自分が着ている着物を見下ろした。 美影ちゃんとお揃いで買ったので、ボクのは白地に赤の牡丹をあしらった振り袖。 髪は短いから結い上げられないけど、それでもピンで摘んで止めたりして、美影ちゃんとお揃いの梅のかんざしを刺している。 顔は美影ちゃんに無理やりお化粧された。 高校生の頃から、毎年元旦にこうして振り袖を着させられる。 ボクは男の子だから袴を買って欲しかったのに、お母さんが買って来たのが何故かお揃いの振り袖だった。 理由を聞いたら、 「だって、二人とも可愛いから。絶対似合うと思って」 だった。 さすがにお父さんが怒るんじゃないかと思ったら、絶賛していた。 美影ちゃんに至っては、大号泣して喜ぶ始末だった。 毎年、元旦にお揃いの振り袖を着ることを楽しみにしている美影ちゃんを見ていると、絶対に着ないと強く言えず、結局こうして着ている。 この格好のまま近くの神社に初詣に行かされるので、中学時代の同級生などには揶揄(からか)われるけど、その度に美影ちゃんがボクを絶賛して、可愛い可愛いと言う。 そこまでされるとさすがに引いてしまうのと、毎年のことになってしまったので、最近では慣れてしまって、誰も何も言わなくなっていた。
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