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それは単なる気まぐれであった。
元カレの誕生日、バースデーメッセージを促すLINEの通知が来る。
中2の夏に別れてから3年。それ以来、高校も別になり、特に会う用事もなく、疎遠になっていたこの頃。
ふーん、同級生だけど私より先に17歳になったんか。なんか、悔しいなぁ。今頃どうしてんのかなぁ。
何の気なしに、平凡なメッセージを送ったのだった。
「ハピバ。英検受かったー?」
そう、数ヶ月前に彼から、英検準二級の時どんな教材を使っていたかと尋ねられ、短くメッセージを交わした記録があったからだ。
数分後、返事が来る。受かっていないという旨の間怠い返信から読み取れる彼らしさは昔から何も変わっていなかった。
それで終わっても良かった会話は意外にも続いた。
「いきなりなんだけどさ俺のことどう思ってる?好きか嫌いかで」
「いきなりすぎるなぁ笑 嫌いではないよ」
「なんかゴメン」
(弱気かよ何故に謝るんねん!)
「逆に私のことは?」
「俺も好きだよ」
(ねぇ、日本語通じてる?)
この言葉はスルーして、3年前の関係について懐かしく語り合うのであった。
お互いの傷が癒えていれば、苦い思い出話は笑えてくるものだ。成長し大人に近づいた現在から、未熟で子供に近かった自分たちを俯瞰し、揶揄した。
ひとことで言うと、「中学生って色々大変な時期だったよね」という至ってマジメな話にまとまった。
それからのこと
「少しだけ話題変えてもいい?女の子には聞きづらいことなんだけど、いいかな?」
(ほう、なに、生理とか?)
「なんだろう」
「彼氏はいますか?」
(あ、そっち系ね)
「今はいないよ」
「今は?」
「中2以来はってこと」
嘘ではない。
「(すみません!とのスタンプ)」
(だから何故に謝るん......)
((会話中略))
「高校入ってから好きな女の子できてないの?」
「一回も、できてない」
「まぁ恋ってしようと思ってするもんじゃじゃいしね」
((会話中略))
「俺からのお願い、聞いてもらえますか?断られる事覚悟しないと言えないな」
「なんとなく分かった?」
「分かったような、分からないような」
本当はさすがの私でも、
あっ...(察し)
状態だ。
「俺の今好きな人って誰だと思う?」
(ほんまに焦れったい奴やなぁ)
「うーん、その人のどんなとこが好きなの?」
「女子力高いし、可愛いし、俺に優しく接してくれそうだと思ったから。」
文面に句点を駆使して真剣味を帯びているのが伝わる。
「そうなんだ」
「俺の好きな人は、貴女だよ。」
あぁ、言われちゃった。
「そんなふうに思っててくれたんだね、ありがとう」
「今は会えないけど、付き合ってもらえないかな。」
「気持ちは嬉しいけど、友達のままでいいかな」
王道かつ丁寧な断り方は習得済みだ。
「今は無理なら、20歳になったらもう一回話し合って決めよう」
(ずいぶんと粘るなぁ...)
17歳になった彼。もうすぐ17歳になる私。20歳まであと3年。3年も経てばこんな約束は時効だろう。
3年も想い合う学生カップルなんてほぼいないし。
駄菓子 菓子!
20歳まで待とうとする3年。別れた日から3年。思い続けてくれた3年。これを思うと、
彼の言う「3年」とは、現実味を帯びている。
重い、これは外国用旅行かばんを優に超える重さだ。
その重みを踏まえ、冷静な事を言う。
「それまでの間に私よりいい人が現れるかもしれないから、ずっと私のこと想ってくれてなくていいんだよ。」
「そんな事は無いと思うよ。」
「でも、その20歳の約束に縛られて他のチャンスを逃したりするような事はしないでね。ちゃんと幸せに過ごして」
「そんな事は無いよ。おやすみ」
ほんとに、重い奴。
ここで一旦会話は終わるわけだが、なかなか寝付けないのであった。
この会話を振り返り、第一に私は「嬉しい」と想っていた。心の「温かみ」を感じていた。
お互いの配慮不足とすれ違いによって別れた中学時代のエピソードがあった上での、
想っていてくれた、これからも想う決意をしてくれている、それが。
ちょっとウザったいくらいの重い愛が。
別れた日から3年。思い続けてくれた3年。
執拗さが、なんとも嬉しかった。
私、愛されてる。と安心感を覚えた。
私は学校で好きな人がいるから断ったけど、私の片想いは報われずに終わるかもしれない。断続的に好きでいてくれる元彼とは違って。
「女子力高いし、可愛いし、俺に優しく接してくれそうだと思ったから。」とのメッセージが蘇る。
私の事をこんなふうに見てくれてる人がいたんだ。その言葉を心に刻んだら、1年分くらい心のご飯になるだろう。
もしかしたら私は究極のワガママで、これを求めていたのかもしれない。断っても断っても、好きでいてくれる無条件の愛が。
「ずっと私のこと想ってくれてなくていいんだよ」なんて嘘だよ、ずっと好きでいてほしいよ、応えられないけど。
私どんだけ自己中なんだよ!
追いたいし追われたい、愛したいし愛されたい。
これは、女が心に秘めたエゴなのである。
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