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「だから、お姉ちゃんが陽太のために晩御飯を作ったって言ってんのよ!」  近くにあった公園のベンチに腰を下ろして仲良く見えるかはさておき、ゆっくり話そうと思ったけど座ってからの開口一番にそういう風に言われた。  確か天宮さんこの間料理下手だとか言ってたような……でも、頑張って僕のために作ってくれたってことか。  だから僕に家までって言ったってことで良いんだよね? 「私が連れてきたって理由でうちに連れてってあげても良いけど?」  是が非でも天宮さんの作った料理を食べたいような気もするんだけど、今日って姉ちゃん帰ってきてたかな……。  帰ってこないならバカ親父と妹を二人っきりにはできないから迷う。 「何よ。お姉ちゃんの手料理を食べたくないっていうの?」 「食べたくないわけじゃないんだけど、家に姉ちゃんが帰ってこないなら僕は帰らないといけないから」 「千夏ちゃんなら友達のとこに泊まらせてもらうって言ってたわよ?」 「なんでそんなことを知ってるんだ?」 「私も詳しくは聞いてないけど、ママが陽太くんから聞かれた時にそういう風に言いなさいって」  つまりはだ。千夏は親父とはいないから別に大丈夫なんだけど、なんでおばさんが千夏のこと知ってるんだ?  まあそんなことを考えるより、千夏が大丈夫なら僕も天宮さんの家にお邪魔しても問題ないかな? 「ほら、そうと決まったなら行くわよ」  う、うん……。 「そういえば陽太。あなたの誕生日ってクリスマスよね」 「え、うん。そうだけどどうかしたの?」 「別になんでもないわ。今年も選んであげるから期待しないで待ってなさい」  うっ、頭が……。  確か去年もこんな会話したような記憶が……期待しないで待っとくとしよう。  去年は僕の記憶が正しかったら天宮家にお呼ばれして豪勢な晩御飯とクリスマスケーキ、それに奈緒と莉緒、おばさんの三人からプレゼントをもらった。  いくら無欲だとは言っても、初めて誕生日プレゼントというものをもらったから有頂天にもなる。  あの時は奈緒からキスのプレゼントとか言われて襲われかけたけど、おばさんが気を利かせてくれて助けてくれた。  翌日の朝、枕元に手書きの手紙が二通。  それに奈緒とペアルックのネックレスと同じ色の手編みマフラーに手袋をもらった。  内心もらったことがなくて初めてもらったものだから、複雑な気持ちと感謝の気持ちがごちゃまぜになってた記憶がある。 「なに人の顔見てニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」 「あ、あぁ……ごめん。他のこと考えてた」 「へぇ〜……私と話しておきながら他のことをねぇ〜……?」  僕としたことが、莉緒と話してて思い出にふけっていたら、見られてた本人のが莉緒がニヤニヤしてたって言うんだから本当のことなんだろう。  莉緒の声が聞こえたと思ってハッと我にかえると、莉緒の顔があと三十センチくらいの距離まで縮まっていることに気付き、素早く距離を取る。  すると莉緒は莉緒で天宮さんとは違った小悪魔的な笑みを浮かべながらそうつぶやいた。 「アイス一本で勘弁してあげるわ」 「え……」 「当然でしょ? 人の顔を見ながらニヤニヤしてたんだから。本当なら警察よ?」  た、確かに莉緒だから警察沙汰にならなかったものの、第三者と今みたいなことになってると間違いなく変質者っ! って叫ばれて警察沙汰になりかねない。  言われてみたら完全に僕が悪いんだからアイス一本で勘弁してくれた莉緒なりの優しさもどこかしらにあると思いたい。 「ガ◯ガ◯くんのソーダ味でいいわ」 「変に気を使わないでいいのに……」 「なに……? 何か言った?」 「なんでもないです」 「そう。なら十分以内に買ってきて」  十分以内と莉緒に言われたが、ここからコンビニまで片道信号待ちも合わせて四分くらいでレジとオーダーのアイスの位置を把握してないから多分今じっとしてたら間に合わないぞ……! 「ほら、早く買いに行かないと間に合わないわよっ!」  さっきの笑みとは違って、天宮さんが魅せたあの柔らかい表情に似てる笑みを浮かべる。  まあそりゃ、似てるのもそのはずだ。  姉妹なんだから瓜二つに似てるところがあってもおかしいところはなにもない。 「ふふっ。レッツゴー!」 「莉緒も歩きながらでいいからこっちに来てよ!」 「考えといてあげるわっ!」  時間がないと思って走りだしながら、思い出して駆け足ながら振り向いて莉緒に歩いてでもコンビニ来るように伝えて再びコンビニに向かって走りだした。  ◇ 「ありがとうございまっしたぁ〜」  なんともまあ癖のある店員さんに当たった。  この癖のある店員さんの会計を済ませた今、信号に足止めを食らうわけでもなくそのまますぐに五分もかからずに今に至るけだけど、莉緒はどこまで来てるんだ……?  僕が走ってきた方を見ても莉緒の姿は見られない。  きょろきょろしながら莉緒を探していると、どこからか莉緒の怒声が聞こえてきた。 「ちょっとさっきから行かないって言ってるでしょ! 離してよ!」  きょろきょろと探しても莉緒は見つからず、コンビニ横に行くと莉緒と莉緒を囲む見た目からして大学生くらいのナンパ野郎が二、三人いた。 「いいじゃん。男なんか待ってるより俺らと遊んだ方がぜってぇ楽しいっての!」  しまいにはナンパ野郎の一人の男が無理矢理莉緒の腕を掴んで近くの車に乗らせようとした。 「離してよ! 行かないって言ってんでしょってば!」 「お前は黙ってさらわれてりゃあいいんだよ!」 「いった……なにすんよ!」  ジタバタする莉緒の頬を拳ではないけど、平手で叩き叩かれた莉緒は若干、涙目になってる。  攫われてる所をただ見てるだけでいいのか! 「警察が来たぞ!!」  そうやって僕が言うと、天が味方をしてくれたのか運良く近くでサイレンが鳴った。 「やべぇ! 女置いてずらかるぞ!」  攫われてる寸前で言ったこともあってか、莉緒を車に入れようと腕を引っ張ってたナンパ野郎の一人が壁に莉緒を突き飛ばし、車を乗って矢継ぎ早にどこかへ逃げていった。  壁に当たった莉緒は衝撃で気は失ったものの大事には至らなかったが、責任感を感じた僕はすぐさま気を失ってる莉緒に駆け寄った。  ◇ 「ん……うんん。私……」  気を失った時はどうかと思ったけど、無事目を覚ましてくれた。  流石に公園まで気を失ってる莉緒を運べる自信は僕になかったからコンビニの癖のある店員がバックヤードを貸してくれた上、色々厄介になりかけたけど、流石にそこまで面倒を見てもらうのは気が引けるから椅子だけ貸してもらった。 「確かあの時突き飛ばされて……」 「莉緒。まだ動いちゃダメ。少しの間じっとしてて」 「陽太。ここは……?」 「コンビニのバックヤード。ほら、コンビニ近かったでしょ? 大事には至らなかったからって店員さんが意識戻るまでって言って貸してくれた」 「そっか。お礼言わなきゃね。……それに陽太も、ありがと。一応礼を言っとく……」  はは……。あいかわらず棘あるなぁ……まあでもそれが莉緒だからね。  そうそう変わられても僕らが困るだけだ。 「私はもう大丈夫だから自転車とって家に帰ろ」 「ゆっくりでいいからね」  コンビニ来てたお客さんの会計を済ませたのか、店員さんがバックヤードに戻ってきた。 「お二人さん見たところ、近くの高校よね。この子知ってる?」  知ってる? と聞きながらスマホに保存されている一枚の写真を見せてくれた。  この子……確か、学校の駐輪場で話したな。 「澪ちゃんですよね……? でも、なんで写真を?」 「自分の娘なんだから持ってて当然でしょ?」  胸の名札を見ると、加賀と書かれていた。  と言うことは、あの子は加賀澪って名前なのか。  莉緒が知ってるってことはたぶん同じクラスか何かかな?  自分の娘ね……。  身体つきからして女性ってことはないだろうからいわゆるニューハーフってやつだと思いたい。 「時間も時間ですからそろそろ帰りますね」 「また寄ってちょうだいね」  加賀さんにぺこりと礼をした後、バックヤードを出てコンビニを出ると公園にあるはずの自転車が公園の駐輪場に置いてあった。  いいとは言ったけど、僕がバックヤードにいる間に取りに行ってくれたのか。  ありがたい。
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