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カワイイ俺のカワイイ進捗
始まりには終わりがある。そんなことを謳っていたのは誰だったか。
物語はいつだってハッピーエンドに辿り着くわけじゃない。
不安に曇った眼では、『選択肢』など簡単に間違えてあっという間に終了だ。
疑心暗鬼な『恋』ほど、脆いものはない。
***
容赦なく照りつける日射しと、じんわりと纏わりつく熱気。
応対するフロアの空調は、午前中からしきりなしに、ごうごうとうなり声をあげている。
当然、従業員のみが使用する窓のないバックヤードも似た通りだ。
とはいえ、お客様の入るフロアよりも空調が劣るのは言わずもがなで。
俺はプラスで稼働させた小型扇風機の微風に目を細めながら、体内の熱を吐き出すように小さく息をついた。
季節は夏、真っ只中。
世間の学生達が長期休暇にうかれ、心も体も活動的になる時期だ。
ここ、秋葉原の男の娘カフェ『めろでぃ☆』も、連日様々な客層で賑わっている。
(あと十分くらいか……)
横目で壁掛け時計を確認して、重い腕を頭上に伸ばす。
昼のピークを越えた三時間半ぶりの休憩が、もうすぐ終わる。
十分に伸ばした腕を脱力させ、机端に置いていたナイロン製のメイクポーチを掴み寄せた。
取り出した手鏡を覗き込みながら、汗で崩れた箇所のメイクを無心で直していく。
と、二度のノック音を挟んで、背後にあった店内に繋がる扉が開いた。「おつかれさまですー」と間延びした口調に、俺はおやと振り返る。
「休憩、早くないか?」
「ちょっと落ち着いてきたんで、早めにって店長がー」
オレンジジュース入りのグラスを片手に扉を閉めたのは、この店で不動の二番人気を誇る"あいら"こと時成だ。
黒髪のツインテールを揺らしながら俺の対面へと歩を進めると、椅子を引いて疲れたように腰を下ろす。
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