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コンセプトは『正統派クラシカル』。
メイド服は一般的にイメージの強いミニスカートではなくロングスカートで、純白のエプロンは肩の部分だけがフリル調になっている。
強いて言えば、ウエスト部分にあしらわれた編み上げのデザインが、さり気なくこの街独特の趣向を反映しているように思えた。
店内はダークブラウンを基調としているようで、アンティーク風の家具がお客様をお迎えする。
最大の売りは、認定を受けた本格的な紅茶が振舞われるということ。
フードメニューも専属シェフ考案の季節限定メニューを用意する力の入れっぷりで、"メイド"と"食"の二本柱が楽しめる喫茶店になっている。
ただやはりと言うべきか、この街で『メイド喫茶』を名乗るだけあって、しっかりメイドとのチェキサービスや専用ブログがあり、今回のようなプチイベントを行うなど、おさえるべき所はおさえているようだ。
「ああ、そっか。それで早めに休憩きたのか」
あちらは純粋な"女の子"によるメイド、こちらはイレギュラーな"オトコの娘"のメイド。
一見畑違いに思えるが、そうとも言い切れないのがこの界隈の奥深い所である。
イベント終了の影響でこの後の混雑が予想されると、店長が判断したのだろう。
時成は首肯すると「まあでもー」と笑みをつくり、
「今日は先輩が18時までいてくれるっていうんでー、心強いですー」
「ま、せっかくの夏休みだし、稼げるうちに稼いでおかないとな」
閉じたコンパクトが、パチンと鳴る。
最後の仕上げにと前髪を指先で直していると、鏡を持つ左手の下に、無気力な腕が転がり込んできた。時成が突っ伏したのだろう。
気にせず続けていると、邪魔をするように腕を指先でつつかれる。
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