夢を見ていた恋しいと

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笠元えいじは、家を出る予定を立てている。 もうすぐ元号が変わるらしい。 笠元は、三つの元号を生家で生きてきた。 もうすぐ五十になる。 父は十二年程前に、母は一年前に亡くなり、この家にいる意味はないと思った。 仕事は、嘱託職員として十年前から博物館で働いてきた。 本来ならば、五年で満期だったのだが、再度ハローワークから応募し、引き続きある種の再雇用のような形で、もう五年働いた。 合わせて十年、今は二月。来月には契約は無事に終える。期間満了、さよならだ。 そしたら、蒸発しようと思うのだ。 気が済むまで何処かを徘徊しよう。 必要最低限というよりも、思い付いたものだけを鞄に詰め込み、旅に出るのだ。 帰ってくるか分からない旅は、もう笠元を待つ者が誰もいないから出来ることだ。
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