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幼い頃に、母の実家近くにある公園で、彼とキャッチボールをしたことをふと思い出した。
笑っていたと思う。
祖母がいた。可愛がっていた犬のネルが笠元の脚に絡まるように、戯れてくるのを楽しげに見ていた。
かわいいねと撫でたネルの茶色の毛並み、ふわふわとした柔らかな尻尾に触れた。
わんわん、わんわん、わんわん、鳴いている声は、祖母を呼ぶ声だった。
着物姿の祖母が小走りでネルに近寄って、抱き上げる。
祖母は、笠元にネルを抱かせるとするのだが、彼は自分にと駄々っ子のようにごねた。
彼は、笠元の二歳下であった。
ひとりっ子の笠元にとって、弟のような存在に、見えなくもなかった。
ーーおばあちゃん、やっちゃんに抱っこさせてあげて。
ーーえいちゃんは優しいねえ。
祖母は彼にネルを渡して、笠元の頭を撫でた。
優しい子だねとほほえんだ。
笠元の取り柄と言えば、それだけだった。
それしかなかったのだが、祖母が褒めてくれるのは嬉しかった。
母に似た面影の、いや、母が祖母に似たのか。洋裁が得意な祖母は、笠元が小学五年生の時に心筋梗塞で亡くなった。
綺麗な人だった。とても、好きだった。
好きだったんだろうなと、今更ながら懐かしく思う。
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