最後の晩餐

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最後の晩餐

夫の小言は、聞こえない振りで押し通し、会社に送り出す。まだ泣いている娘をなだめて幼稚園に預け、リツコは一人、家に戻った。 パートまでは、まだ時間がある。 迷信だと、わかっている。それでも……。 「見せられるわけ、無いじゃない。こんな、手紙……」 子供らしい、少し歪な文字で書かれた手紙には── 『おばあちゃんがいなくなって、ぱぱとまま、けんかしなくなったよ』 『おうち、すごくあかるいの。おばあちゃん、あそびにきてね』 他愛もない手紙、かもしれない。でも、こんな手紙。たとえ迷信でも、お義母さんには、見せられないわ……。 そう思いながら、残りの手紙に目を通す。 「ままの、すーぷ、おいしかった?」 ──ドクン 「何よ……これ……」 姑は最後に、手作りのスープを飲みたがった。食欲が無いからと。 「わたしが悪いって、言いたいの? 毒なんて、盛ってないわよ」 姑の望み通りに材料を揃えてスープを作るのは、なかなか大変な作業だった。リツコは少し苛立ちながら、もう一枚の手紙を読む。 『うん。美味しかったよ──』 「嘘……」 思わず、手紙を落としそうになる。だって、これは……。あきらかに、ルカの筆跡ではなかった。 震える手で、手紙を持ったまま、続きを読む。 何故、だろう? 続きを読むのが、ひどく、恐ろしい……。 『特に、ルカちゃんの「スパイス」が、最高だったわ……』 ひらり、ひらりと。 リツコの手から、手紙が滑り落ちていく。 「嘘よ。嘘だと、言って……」 手紙の筆跡は、間違いなく、亡くなった姑のものだ。でもスープを飲んだあの日には、もう。ペンなど、握れないほどに姑は、弱っていた。 手紙には、最後にこう書かれていた。 『もう二度と食べられないのが、残念ね』
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