【11・とある記事】

2/2
前へ
/51ページ
次へ
そして、 長谷川さんの遺体には、更に驚くべき点が有った。 それは、その遺体が一ヶ月もの間、外海を漂流していたのにも関わらず、 全くもって『綺麗な状態』だった事である。 通常であれば、それほどの長い時間が経過していれば、 腐敗と体内に溜まったガス等で大変酷い状態になっている所なのだが、 長谷川さんの遺体は、所々に魚や海鳥についばまれた痕跡が有るにせよ、 それ以外は、生前の姿そのままの、極めて『綺麗な状態』で発見されたのであった。 そして、更に検死の結果… 長谷川さんの遺体は、 『死蝋化(しろうか)』している事が判明した。 死蝋化とは、 遺体が長期間、土中や水中等、何らかの理由で腐敗菌が繁殖しない条件下に置かれた結果、腐敗を免れて遺体内部の脂肪が変質し、 全体がロウソク状になる現象の事を言う。 この事に関して、その方面の専門家は… 「本当に珍しい事だが… 恐らく、長谷川さんの遺体は、ずっと『うつ伏せ』の状態で顔面に直射日光や菌の影響をほとんど受けずに漂流し続けていたのではないだろうか。 そして、やはり殺菌作用が有る海水…しかも比較的、水温が低い寒流に浸かり続けているうちに、大幅に腐敗の進行が遅れ… その結果、徐々に徐々に肉体がロウソク状に変化して行ったのではないだろうか。 可能性としては相当に低いが…そうとしか考えられない。 死蝋化に要する時間は新生児では少なくとも二、三週間で成人では四、五ヶ月かかるのが普通なのだが… 長谷川さんの遺体は、極めて短時間で死蝋化した事になる! しかも通常、死蝋化した遺体は大変もろく、海流に流されている間に所々が崩れてしまうものだが、長谷川さんの遺体は、ほとんど原形を留めている! この様な例は、本当に珍しい!まさに『奇跡』としか言いようが無い!!」 と、こちらも驚くべき見解を述べた。 そうなのだ。 発見された長谷川さんの遺体は、 死蝋化により真っ白で、本当にロウ人形と見間違うかの様な綺麗な顔をしていて… その表情は、まるで眠っているかの様…。 本当に… とても穏やかで、 安らぎに満ちたかの様な、表情をしていたと言う』
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加