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語らいは必要としない
その日cometにて、神田に玲二、迅と誠、そして天音は客足がある程度退くまでの間、賑やかに話しながらもそわそわしていた。
気持ちはわからなくはない、わからなくはないけれど、甲斐はだんだんとこの五人に面倒くささを感じてきた。そんな甲斐とて本心はみんなとあまり変わらない。
四月一日、この日は天音の誕生日であった。
「早くお酒飲みたい!」
まだ駄目だと言う神田に天音が只管文句を言う。
弟は出来たけれども兄が居ない天音は、彼らを兄のように慕っている。とはいっても、態度はまるで妹然とはしていない。
「だーかーらー、我慢して我慢して飲んだ酒が一番美味いんだよ。それ味合わせてやるから、我慢しろよ」
そんなやり取りを何度も交わす二人を他の面々は最初は面白おかしく茶々を入れながら遊んでいたが、只管繰り返されるといい加減飽きるし呆れる。二人は放って自分たちは自分たちで賑やかに酒を傾ける。
天音にはまだと言い続けてる神田も既に酒を飲み始めている。だから不公平だと余計に天音が食ってかかる。
天音が大学へ進学してからちょうど一年が経つ日。今日で彼女は二十歳であり、煙草もお酒も許される歳になった。
今までcometでは、もちろんノンアルコールのカクテルを嗜んでいた。今日からはアルコールの入ったものが飲める。
待ちに待ったこの日が来たというのにまだお酒にあり付けない。
煙草にもあり付けない。
神田が酒を飲みながら飲んだ方が美味いと可笑しな理屈を並べるからだ。
天音はずっと早く大人になりたいと思っていた。大人びた自分も、大人になれば大人びているのではなくてただの大人だ。篤と出逢ってから後、密かながらそんな思いは強くなる一方だった。
変人ではあっても、恋をしたくらいには羨望は抱いている。尊敬だってしている。
篤に恋をしていた。その言い方が一番ぴんとくる。恋をしていただけだった。
彼の自分に対する扱いが嬉しかったり不満を感じたり忙しかったけれど、先を決して望んでいなかった。
わたしはこの人を置いて先へ行く。
そして本当に天音は彼の気持ちを置き去りにした。
一年前、篤に連れられて初めてcometにやって来た時に出会ったみんなは天音を子供扱いしない。というよりも、彼女はどうにも子供扱いしようがなかった。彼女と彼らの関係はまるで対等である。
天音はちっとも子供じゃない、彼らから見て。まるで変わらないことに驚くくらい子供じゃない。
変わらないけれども、環境はそれなりに人を変える。
変わっていないようでまるで違いもする彼女を見ていることは楽しいことだった。
気が強いのは相変わらず、そんなところも含めて共に過ごすと楽しさや面白さしか覚えない。
彼女はいつだって自由であった。自由に気ままに繕わない美しさを持つ彼女は今、これまでと少し違う自由を味わい、いつも大きな羽を広げて大空を駆けては自分の世界を愛おしく見つめているように映る。時々、愛しいお気に入りの枝木に留まり目を細める。
気の強い彼女は女性らしい面が山ほどあるのに、神田たちと男勝りに年中馬鹿騒ぎをして、そんな時の彼女の目はいつも輝いてる。
どんな時も結局あの人は美しいのだなと、色々な今の天音の顔を見つける度に甲斐はしみじみと思う。そんな自分が自分でも時々可笑しくなる。
篤が言うように、天音は美しくあり、可愛らしくもあった。
しかし甲斐が今のあまねに戸惑うことはなく、篤がひと時抱えていた葛藤は少なくとも今は存在していない。
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