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じっと自分を見つめる天音の大きな目に吸い込まれそうな心地を覚えながら、奏は結局彼女の手を力強く握ってしまった。
「これからは、どうしてくれる?」
そんな言葉が絞り出されてしまい、奏はひどく焦った。
弱さを見せる時は苦しい時だけと決めていた。先ほど苦しいと言ったけれども、苦しくて天音の部屋を訪れたわけではない。悔しくて涙が滲みそうになる。遠くに行かないでとでも言ってしまいそうで怖くなった。
「これからも変わらない」
天音はきっぱりとそう言ったけれども、二人は離れ離れになる。どうして変わらないなどと言えるのかと憤れるほど奏は強くなかった。
「じゃあ、どうやって?」
「会いに来ればいいじゃない」
「遠い」
「そう、遠いから奏が苦しい時、来てくれないと気付けない」
そう天音が言うと、奏は乾いた笑いを少しだけ漏らした。
「最後じゃないから苦しいの今日も取ってあげる」
いつものように花純は智也の出張にくっついて行った。家を空ける期間は一週間。その真ん中の日のことであった。
奏の横に横たわった天音に、彼は覆いかぶさると唇を重ねながら強く彼女を抱きしめた。煽ったのは天音だ。そう決めつけて、奏は望がままに彼女の唇を犯しはじめた。
同意の上での口付けを犯すと称すのは少しおかしい。しかし、欲を押し付けている感覚を抱きながら天音とキスを交わすことは、犯しているに等しいのではないかと奏に思わせた。
熱く深く口付けを交わし続けていると、いつもより身体が熱い気がした。
はっととして奏は天音の唇を解放した。
「ごめん……姉さん」
「なにが?」
「どうして?」
意味の通らない会話を交わすと、奏はどうしていいものかわからなくなってしまった。天音は何も動じていないように見える。まるでいつもと同じだ。動じない、動じるべき時に動じてくれない。
姉はやはり綺麗過ぎた。美し過ぎる。黒い髪と大きな目、そうして白いきめ細やかな肌の奥を知りたくなってしまう。
これ以上は何かを失くす。
初めて口付けを交わした日の、天音のぼんやりとした声を思い出した。
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