Ⅲ 偽物には本物の鉤爪を

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「――リハルドさん! ここを開けてください! リハルドさん!」  わずかの後、店の二階へ上った俺達は、この街の顔役、ハコブ・リハルドの部屋の前に立っていた。  だが、いくらノックして声をかけてもまるで反応がねえ。 「面倒臭え、どいてろ!」  これじゃ埒があかねえんで、俺は鍵のかかったドアを一撃で蹴り破ると、強引に部屋の中へ踏み込んだ。 「リハルドさ…!?」  続いて侵入した探偵も、そこにいたリハルドの姿に言葉を失う。  案の定、上半身裸になったやつの右腕にはたっぷりと血の滲んだ包帯が巻かれ、その顔はさっき見た紳士面とはまるで別人の、まさに獣のような獰猛な形相に変化している。  だが、やつが正真正銘の人狼でないことはすぐに知れる……床には、狼の毛皮を繋ぎ合わせた着ぐるみが脱ぎ捨てられているのだ。 「り、リハルドさん、あんたが犯人だったのか?」 「ああ、そうとも。だから穏便にすませろと言ったのに……満月の夜には血が騒いでね。獲物を狩らずにはいられないのさ。だが、人に見られるとマズイんで満月の夜に相応しい〝人狼〟の格好をさせてもらったんだよ」  いまだ半信半疑に尋ねる探偵に、偽人狼は尖った犬歯を覗かせながらあっさりと犯行を認めてみせる。 「知られたからにはやむをえん。君らにも今宵の獲物になってもらおうか……」  ところが、続けてそんな宣告をすると、鋭い鋼鉄製の三本爪が付いた武器を舌舐めずりしながら見せつけてくる。おそらくは、そいつがさっきのねーちゃんを殺った凶器だろう。 「……やれやれ、何が獲物だか。満月で変身するなんざ信じてる偽物がよく言うぜ……それに、本物の人狼はもっとすばしっけえ。ヘボ探偵のヘタクソな銃なんかに当りゃしねえよ。仕方ねえ。本物の人狼ってのがどういうもんかを見せてやるよ……」  知らねえふりしてすますつもりだったが、こうなるとさすがにツッコまずにもいられねえ……やむなく俺は正体を晒してやることにした。
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