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「ハァ……しょうがねえ。んじゃあ店で飲み食いした分、タダにしてもらうってのでどうだ? それと後は………」
なんとも怖がられたもんだが、どうにも誤解を解くのは面倒臭そうなので、俺はそのまま放置するとそんな提案をして部屋の中を物色する。
「お! やっぱりいいもん持ってんじゃねえか! 今回の手間賃はこいつで手を打つぜ」
すると、さすがは飲み屋の店主。棚に置いてあったフランクル名産の超高級赤ワインのボトルを見つけた。
こいつをもらえれば申し分ねえ。むしろ、お頭から拝借した金よりもこっちの方が価値はある。
「……リハルドさん! 今の音はいったい?」
「何かあったんですかぁ!?」
ちょうどその時、階段の下からそんな飲み屋自警団達の声が聞こえてきた。
やつらが上がって来て、この部屋の光景を目にしたらまた面倒なことになる。
床に脱ぎ捨てられた狼の毛皮、血塗れの顔役と震え上がった探偵、そして、満面の笑みで高級ワインを握りしめている俺……どう考えても俺が犯人だと誤解されるのは必至だ。
そうなれば大騒ぎになり、衛兵が大挙して駆けつけて、それこそ厄介なこと限りなしだ。
「んじゃ、そういうことで。俺は海賊らしく、こいつをいただいておさらばするぜ。達者でな~!」
俺は窓を開けると脚だけを人狼のそれに再び変化させ、いまだ蛇に睨まれた蛙のように固まってるハーフボイルド探偵に別れを告げながら、橙色の仄かな明かりが灯る夜の街へと飛び出して行った。
(Le loup-garou sous la lune ~月下の人狼事件~ 了)
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