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Ⅲ 偽物には本物の鉤爪を
その後、自警団により隈なく捜索が行われたが、あの人狼を見つけることはできなかった。
二本足で立つ狼だけでなく、右腕に撃たれた傷のあるやつもである。
また、ヘボ探偵にしては抜け目なく、前もって街の四方に見張りを立てておいたらしいんだが、人狼はもちろんのこと、この飲み屋街から出て行った者は誰一人としていなかったそうだ。
「いったい何がどうなってる!? あのバケモノはどこ行きやがったんだ? 魔法円の結界にも、街の入り口の見張りにも引っかからずに消えたんだぞ?」
飲み屋に戻った探偵が、巻き毛を掻きむしりながら困惑した様子で叫ぶ。
「だから言ったろ? 人狼に魔法円は利かねえって……けど、これではっきりした。相手は悪魔でも悪霊でもねえ。実体のある生身の人間だ。んで、見張りが見てねえってことは、この街ん中にまだいるってことだ」
だが、犯人に心当たりのあった俺は、むしろ納得したというように言ってやった。
「まだこの界隈にいるってのか!? でも、あれだけ探しても腕に撃たれた傷あるやつなんていなかったぞ?」
「一人残ってるじゃねえか……一番の当事者なのに捜査に消極的で、こんな騒ぎになってるってのに一人だけ顔出さねえやつがよ」
「まさか、それって……」
愉悦に口元を歪めて語る俺の言葉に、探偵は唖然とした顔で呟いた――。
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