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そのまま、詩音は斯人を連れて町をそぞろ歩いた。公園、神社、小学校……と見てまわっていると、だんだん斯人の歩くペースが落ちてきた。
「もしかして、疲れちゃった? そっか、ずっと室内にいたから、あまり体力ないのかな」
「疲れた……んですかね、ちょっとよくわかりませんが……なんだか、この辺りに違和感が」
そう言って、斯人は自分の腹部に手を当てた。詩音はぎょっとして、
「え、だ、大丈夫? 痛い? 気持ち悪い?」
「不快ではありますが……痛みとは違うような。何でしょう……」
「どうしよう、急に連れ出したから体調が……!?」
慌てふためく詩音の耳に、小さな声が届いた。鳴いた虫は、斯人の腹の中にいるようだ。
「……もしかして、お腹すいてる?」
「ああ、そうか。これは空腹の感覚だったんですね」
「心配させないでよ、もう!」
飲まず食わずの加護があった斯人は、空腹さえも忘れてしまっていた。脱力した詩音に、斯人は眉根を寄せて言う。
「意識したら、耐えられなくなってきました。あなたのせいですよ、責任とってください」
「わ、わかったってば。書寂館って、台所とかある? 十歳までは斯人くんもご飯食べてたんだよね?」
「ありますよ。冷蔵庫と、電子レンジと、コンロもそろってます。ただ、ホコリをかぶっているでしょうね」
「料理の前に掃除が必要だね……」
詩音は苦笑しながら、スーパーのほうへ足を向けた。
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