3|シャーロット

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***  遅めの朝食は、詩音がこっそり持ち出した食パンと牛乳を使ったパン粥だった。 「僕はいつまで病人食なんですか」 「うーん……いつまでだろうね?」 「……」  非難の視線には気づかず、詩音は蛇口をひねって水を止めた。 「よし、洗い物終わり! 斯人くん、今何時?」 「もうすぐ十時です。チャーリーが来るころですか」 「うん」  パン粥の作り方をノートに記していた斯人は、残りを簡単にまとめて椅子から立ち上がった。 「チャーリーめ、ちゃんと仕事の用件なんでしょうね……?」 「別に私用だっていいじゃない。ところで斯人くん、前から気になっていたんだけど、こっちの部屋は何?」  詩音が指さしたのは、本館とつながる渡り廊下とは反対側の壁際。キッチンに向かって右側に見える、三つ並んだ同じような見た目の扉だ。 「そっちは僕たちの私室です」 「『たち』? ああ、ハクのぶん?」 「いいえ、両親が生きていた時の部屋もある、という意味です」 「あ……」  また斯人にこんな顔をさせてしまった、と詩音は後悔した。あえて声を明るくして尋ねる。 「か、斯人くんの部屋はどれなの?」 「一番左のそっちです」 「見ちゃおっかな」 「別に構いませんよ」  打っても響かないどころか空振りした気分になったので、詩音は逆に気恥ずかしくなってやめた。 「ちなみに、遠慮して聞かないでしょうが、真ん中の部屋が両親の部屋でした。当時のままにしてあります」 「そう、なんだ」  うなずきかけて、その首を横にかしげた。部屋は三つ。一つは斯人の部屋で、もう一つは両親の部屋だという。では、残りの一つは誰の部屋だというのだろう。 「ねえ、こっちの、一番右の部屋は……」  一歩、そちらへ近づいた瞬間だった。 「斯人くん……?」  詩音の腕は、斯人にがっしりとつかまれていた。華奢な腕からは想像もできない強い力で握られ、詩音は顔をしかめた。 「い、痛いよ、斯人くん」 「あ……」  斯人はすぐに手を離した。詩音をとらえている間の数秒、斯人の黒っぽい常盤色の瞳は、今ここを見ていなかった。 「……失礼しました。ですが……どうか、その部屋だけは、開けないでください」 「え……」 「絶対に」 「う、うん……」  もとより、無断で入るつもりなどなかったが、詩音は素直にうなずいた。  ちょうどその時、階下で扉が開く音がした。 「チャーリーが来たみたいです。……行きましょう」
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