「総積載量2トン」

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“ゴミ収集車”の総積載量は2トン…このトン数は 家族構成など、一つの世帯ごとの人数などの詳細を省くとしても、およそ30世帯分の ゴミが(マンションや集合団地などに置かれるゴミのボックスステーションを含めれば、その倍以上の世帯と考えていい)ワゴン車ほどの大きさに、積み込める計算になる… 家庭ゴミ収集を仕事とする友人の話である。その日、彼は仕事を終え、ゴミの集積場に 車を走らせていた。今職に就いて、日が浅い彼も、隣に座る先輩程ではないが、 収集業務を経験し、ゴミステーションを周る回数、積載量を超えずに仕事をする要領が、 わかってきた頃だった… 最初、それは、タイヤに何かが引っかかったような音に聞こえた。 しかし、すぐに後部タンク内部を爪のようなモノで引っ掻く音だと認識した。 引っ掻き音は、やがて、拳で叩くような音に変わり、車全体を揺らしていく。 まさか、人が?そんな訳はない。次に考えたのは小動物、出されるごみ袋の中には、新聞紙や黒い布などで中が見えないモノがある。例えば、眠っていた何かが途中で目覚め、 外に出たい一心で、もがいていたとしたら…? 友人の視線に、先輩は首を横に振り、こちらの杞憂を静かに一蹴する。 友人もそれ以上は言わず、集積場を目指した。 目的地に到着すると、車を焼却炉に繫がる排出口に車をバックさせ、ゴミを落とす作業を始めた。友人は、先程の音が気になり、稼働するタンク内部を確認しようとする。 “プップー” 車輌後部で作業をする人用のブザーが鳴り、友人は我に返った。そのまま排出は終わり、 彼は後ろ髪を引かれる思いで車に乗り込む。 「すいません…」 謝る友人に、先輩は車を黙って走らせた。集積場を出て、しばらく経ってから、 彼は、ようやく口を開いた。 「いいか、〇〇(友人の名前)ウチの積載量と担当ステーションの数、考えろ。 この小せぇトラックに何世帯分のゴミ入れてると思ってる?詰め込みだよ。それだけ圧縮されてる訳だ。次から次へと詰め込んで擦り潰されるタンク内で生きてる奴なんていねぇよ。だから、お前が聞いたのは気のせいだ。何もいねぇ。」 「ですが、先輩…」 「おめーとよ、同じ事言った奴がいてな。炉に落ちたのがいんだよ…だから、気を付けろ。」 「…はい…」 答える友人の耳に先輩の声が響いた。 「モニター(車輌後部を映すカメラ)で見てたけどよ。アイツ、お前の頭、引っ張ろうとしてたぞ?」 そう言われ、改めてゾッとした…(終)
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