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ベッドの上で目を覚ますと、光一が手を握ったままこちらを見ていた。
「あの日……」
と花鈴は間近に光一の顔を見つめながら、小さく呟く。
「あのとき、あの時間に、道を歩いて……、
ぼんやり受験から現実逃避しててよかったです」
と言うと、光一は、それはどうだ、という顔をしていた。
ラジオはまだついていた。
静かに音楽が流れていて、やがて、
「おはようございます」
と言うアナウンサーの声が聞こえてくる。
ええっ? と花鈴は枕許のデジタル時計を見た。
「まだ三時ですよっ?
誰がこんな時間におはようございますなんですかねっ?
漁師さんですかっ?」
と叫ぶ花鈴の横で、
「……しまったな」
と光一がつぶやいていた。
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