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安斎さんは、びくっとなった。よくよく見ないと、分からないくらいだけど。
「……はい。それは、」
でもそのためらいはほんの束の間で、すぐに立ち上がって笑顔を見せて、胸ポケットからペンみたいな物を取り出した。
「ダイヤは特別な色合いの物を除いては、無色透明が最上です。トレイの色が黒なのは、色を見る必要性よりも、輝きを見る必要性の方が高いからです」
そう言うと安斎さんは、トレイの上でペンを捻った。
「え!?」
「わあ!」
ペンはペンじゃなくて、ペンくらいの太さのライトだった。
安斎さんがそれを細かいつぶつぶの上でちらちら照らすと、ダイヤの光が一斉に、歌ってるみたいにさざめいた。
「こんな小さいのに、こんな光るんだ……!」
「メレダイヤは、メインストーンでは有りません。そこに費用を掛けるならメインストーンのランクを上げたい、というのは、どなたにとっても当然の選択です。それに、こんなに細かい物をひとつひとつ選ぶバイヤーは、まず居りません。そこまでしては費用対効果的に、割りが合わない」
安斎さんは一度ライトを消して仕舞うと、今度はピンセットを取り出して、小さなダイヤのうちのいくつかを、ひょいひょいとトレイの上で選り分け始めた。
「なので、メレダイヤはどうしても添え物的な扱いになってしまいがちで、質が重視されない傾向に有るのですが……当店のスタッフは、採算度外視のマニアックな者が多いもので、」
安斎さんは分けた小山を、もう一度、ライトで照らした。
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