花冠とすみれの指輪

21/26
544人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
 安斎さんは、びくっとなった。よくよく見ないと、分からないくらいだけど。 「……はい。それは、」  でもそのためらいはほんの束の間で、すぐに立ち上がって笑顔を見せて、胸ポケットからペンみたいな物を取り出した。 「ダイヤは特別な色合いの物を除いては、無色透明が最上です。トレイの色が黒なのは、色を見る必要性よりも、輝きを見る必要性の方が高いからです」  そう言うと安斎さんは、トレイの上でペンを(ひね)った。 「え!?」 「わあ!」  ペンはペンじゃなくて、ペンくらいの太さのライトだった。  安斎さんがそれを細かいつぶつぶの上でちらちら照らすと、ダイヤの光が一斉に、歌ってるみたいにさざめいた。 「こんな小さいのに、こんな光るんだ……!」 「メレダイヤは、メインストーンでは有りません。そこに費用を掛けるならメインストーンのランクを上げたい、というのは、どなたにとっても当然の選択です。それに、こんなに細かい物をひとつひとつ選ぶバイヤーは、まず居りません。そこまでしては費用対効果的に、割りが合わない」  安斎さんは一度ライトを消して仕舞うと、今度はピンセットを取り出して、小さなダイヤのうちのいくつかを、ひょいひょいとトレイの上で選り分け始めた。 「なので、メレダイヤはどうしても添え物的な扱いになってしまいがちで、質が重視されない傾向に有るのですが……当店のスタッフは、採算度外視のマニアックな者が多いもので、」  安斎さんは分けた小山を、もう一度、ライトで照らした。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!