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宝飾店には秘密の部屋が有るんだってことを、私は今日、知ってしまった。
席を外してたゆきが帰って来たあと、私達はカウンターじゃなく奥の部屋にって案内された。
理由は、簡単に言うと「お詫び」だ。私達のことを誤解した店員さんが親切な助言をしてくれたのだけど、それが原因でゆきがキレかけた──すんでの所で止められて、ほんとに良かった。こんな素敵なお店の中で、猛獣並みの「悪いゆき」に出てこられたら困る。
「お待たせ致しました。色石の指輪をお持ちしました」
出されたお茶を頂いてたら、山本さんがトレイを持って、後ろに例の猛獣ゆきの原因を作った新人さんを従えて、やって来た。新人さんも、何か持ってる。
「このたびは安斎が大変失礼な事を……重ねてお詫び申し上げます」
「申し訳御座いませんでした」
席に着く前に、二つ折りになるんじゃないかって位に頭を下げられる。ゆきから少しひんやりした空気が漂うのを感じて、私は慌てて二人に言った。
「大丈夫です!私、全然気にしてません。妊婦さんがそうなるとか、指輪のデザインの話とか、知らなかったですし……私の事を思って言って下さったんですもん、ありがたいです」
……あれ?
私、なんか失敗した?
ゆきを宥めようと思って言った言葉、途中まで上手く行ったのに、最後の方でまたちょっと涼しく……
「こんな物でお詫びになるかどうか、分かりませんが……」
山本さんが絶妙なタイミングで、済まなそーうに言う。
「本日は、社員が個人的にコレクションしております原石も、お見せ致します」
「へ」
「原石」って言葉で、ゆきの興味が一気にそちらに持って行かれた。
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