花冠とすみれの指輪

23/26
前へ
/64ページ
次へ
「……じゃあ、お言葉に甘えます……まな?」  ゆきは、安斎さんからピンセットとルーペを受け取ってそれをくるっとひっくり返すと、私に持ち手を差し出した。 「ううん。」  私は、ゆきに選んで欲しい。  そう思って(かぶり)を振ると、ゆきは七色に光ってる山を指差した。 「この中から、選んで良い?」 「ん。」  こっくり、頷いた。  控え目に七色に光るダイヤは、華やかに輝く物よりずっと、白詰草の花を思い出させる。  小さなダイヤをルーペで見ながら、ゆきはひとつひとつ丁寧に石を選んでくれた。  白詰草を一本一本、選んで束ねてくれるみたいに。 「よし、六個。これでいい?まなちん。」  さらりと呼ばれて、ほんの少し、返事が遅れた。  トレイの上で選び出された六つの小さな石達は、「内緒だよ」って言ってるみたいに、にこにこ笑ってくれている。 「……うん。ありがとう、ゆきにい。」 「では、こちらで手配させて頂きますね」  私達にしか分からない、暗号みたいな、ささやかなやり取り。  それを聞いた山本さんは六つの石をケースに仕舞い、ゆきからルーペとピンセットを返して貰った安斎さんに、ダイヤの乗ったトレイごと渡した。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

545人が本棚に入れています
本棚に追加